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サイバー攻撃を想定したBCP|自然災害BCPとの違いと診療継続の優先順位

2026年9月14日

サイバー攻撃を想定したBCP|自然災害BCPとの違いと診療継続の優先順位
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多くの病院は、すでに自然災害を想定したBCPを持っています。地震・水害・停電を前提に、参集基準や備蓄、非常電源の運用が定められている。ところが、その計画をそのままサイバー攻撃に適用しようとすると、いくつかの前提が成り立ちません。

最大の違いは、復旧までの期間が読めないことです。地震なら被害状況を見れば復旧の見通しがある程度立ちます。サイバー攻撃では、侵入経路を特定し、汚染されていないバックアップを見つけ、安全性を確認しながら段階的に戻す——この一連が終わるまで、何日かかるかを初日に言えません。その間、紙で診療を続けることになります。

もうひとつの違いは、支援が来ても早く戻らないことです。災害時は人員と物資が入れば復旧が進みます。サイバー攻撃では、外部の専門事業者が入っても、調査と検証に時間がかかる構造そのものは変わりません。

2026年度診療報酬改定では、新設された電子的診療情報連携体制整備加算の加算1の要件に、サイバー攻撃等に対するBCPの策定と訓練の実施が入りました。サイバーBCPは、いまや制度上も求められる文書です。

免責:本記事は一般的な情報提供です。診療報酬の算定要件およびガイドラインの要求事項は、厚生労働省の告示・通知・疑義解釈と「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」本文が正本です。実際の対応はそれらに基づいて行ってください。

自然災害BCPとの違いを整理する

既存のBCPを土台にするのは合理的ですが、どこが違うかを明示しないと使えない計画になります。

論点自然災害BCPサイバーBCP
被害の把握目視できる。初期に見通しが立つ範囲の確定に時間がかかる。初日に見通しが立たない
復旧期間概ね想定可能読めない。 数日から数か月の幅がある
建物・人員被害を受ける無事。人はいるがシステムだけがない
外部支援人員・物資が入れば進む調査・検証が律速。人を増やしても短縮しにくい
バックアップ遠隔地にあれば無事同一ネットワーク上なら同時に被害を受ける
情報伝達通信インフラの被害院内システムが使えない。連絡網も同時に失われ得る
再開の判断安全確認ができれば戻す原因が塞がれるまで戻せない
法的対応限定的個人情報の報告義務、公表、捜査対応が並走する

**「人はいるがシステムだけがない」**という状態は、災害BCPが想定していない条件です。職員は出勤でき、建物も電源も無事で、しかし電子カルテが開かない。この状態でどう診療を回すかが、サイバーBCPの中心的な課題になります。

報告義務の並走については 個人情報漏えい時の報告義務、初動そのものは ランサムウェア被害時の初動 をご覧ください。

診療機能の優先順位をつける

BCPの本体は、止められない機能から順に並べることです。サイバー攻撃では全機能が同時に止まるため、どこから戻すかを決めておかないと現場の要望が競合します。

優先順位は施設の役割によって変わります。整理の軸は「止まったときの患者影響」と「代替手段の有無」の2つです。

機能停止時の患者影響代替手段優先度の考え方
救急受入生命に直結近隣への転送(地域全体の負荷になる)最優先。受入可否の判断基準を事前に決める
手術・分娩生命に直結予定手術は延期可、緊急は不可緊急対応の継続手段を確保
透析数日で生命に影響他院への依頼、紙の指示継続を前提に紙運用を設計
入院診療中〜高紙の指示簿・処方箋様式の備蓄が必須
外来(予約)縮小・延期早期に縮小を判断する
検査・画像外部委託、手書き依頼依頼・結果返却の代替経路
調剤・薬剤紙の処方箋、手書き監査体制を含めて設計
会計・請求低(即時)後日精算**後で効いてくる。**請求の遅れは資金繰りに直結

会計・請求は初期には優先度が低く見えますが、長期化すると資金繰りに直結します。 復旧が数週間に及んだ場合の請求業務の回し方(後日精算の運用、レセプト提出の扱い)を計画に含めておくと、現場の負担が大きく変わります。

RTOとRPOを数字で決める

BCPの質は、目標を数字で持っているかで決まります。用語としては次の2つです。

指標意味医療機関での問い
RTO(目標復旧時間)どれだけの時間で業務を再開するか「電子カルテが使えない状態を何日まで許容できるか」
RPO(目標復旧時点)どの時点のデータまで戻せればよいか「直近何時間分の記録が失われても診療を継続できるか」

RPOはバックアップの取得間隔で決まります。日次バックアップなら、最悪で1日分の診療記録が失われることを許容する設計です。これが受け入れられないなら、取得間隔を短くするか、紙の記録から復元する運用を決めておく必要があります。

RTOは、復旧手順が文書化され、実際に試されているかで大きく変わります。手順が頭の中にしかない状態では、担当者が不在なだけでRTOが崩れます。

2026年度改定の加算1が求めるバックアップ要件は、この文脈で読むと理解しやすくなります。

加算1のバックアップ要件満たすとされる方式
複数方式によるバックアップ確保、一部はオフライン保管① 外部媒体方式(RDX等の別媒体で保管し、世代管理も実施)<br>② 自動転送方式(NAS等へ自動転送し、常時ネットワークから切り離された状態<br>③ クラウド内方式(クラウドサービス内の論理的に切り離された領域へのバックアップで、速やかな復旧が可能な場合)

世代管理については、日次でバックアップする場合に少なくとも3世代を確保するという整理が示されています。週次・月次の扱いは病院規模やバックアップ方式で異なるため、一概には示されていません。構成の設計は 医療機関のバックアップ設計|3-2-1ルール で詳しく扱っています。

紙運用への切替を設計する

サイバーBCPで最も準備不足が露呈するのが、紙運用です。「いざとなれば紙で」と口頭で合意されていても、実際には様式がない、書き方が分からない、電子に戻す方法が決まっていない、という状態が典型です。

準備すべきものを具体的に挙げます。

  • 印刷済みの様式 — 処方箋、注射・処置指示、検査依頼、看護記録、同意書、入退院関係。PDFの保管ではなく現物の備蓄。院内ネットワークが使えなければ印刷もできません
  • 参照用の情報 — 入院患者一覧、アレルギー・禁忌情報、当日の手術・検査予定。定期的に出力してオフラインで保持する範囲を決める
  • 記入ルール — 患者識別の方法(IDが引けない状況を想定する)、記録者の明示、時刻の記載
  • 物理的な保管と搬送 — 紙が院内を移動する。紛失・混同を防ぐ運用(受け渡し記録、部門ごとのファイル)
  • 電子への戻し方 — 復旧後、紙の記録をいつ・誰が・どの順番で入力するか。スキャン取り込みで済ませるか、キー入力するかを決めておく

「何日間、紙で回せるか」を数字で答えられる状態を目標にしてください。様式の備蓄枚数、紙カルテの保管スペース、入力に要する復旧後の人員。この3つを見積もれば、おおよその上限が出ます。

参照用情報のオフライン保持は、それ自体が新たな漏えいリスクを生みます。保管場所と廃棄までを決めておくことが必要です。端末の管理は 端末管理|持ち出しPC・タブレット、可搬媒体は USBメモリ・可搬媒体の管理 をご覧ください。

訓練して、計画に戻す

加算1の要件は「BCPの策定」だけでなく**「訓練の実施」**を含みます。制度上の要求という以前に、訓練していない計画は使えません。

段階を踏んで負荷を上げるのが現実的です。

段階形式所要確認すること
第1段階読み合わせ1時間程度役割と連絡先が最新か。用語が通じるか
第2段階机上訓練(シナリオ)半日判断の順序、権限、情報の流れ
第3段階部分実地(縮退運用の試行)半日〜1日紙様式で実際に書けるか、所要時間
第4段階復旧訓練計画的にバックアップから実際に戻せるか、所要時間

第4段階を省略しないでください。 バックアップを取得していることと、そこから戻せることは別の話です。取得は自動化されていても、復元手順を一度も試したことがない医療機関は珍しくありません。復元試験の結果(所要時間、つまずいた箇所)がそのままRTOの根拠になります。

訓練の設計・記録の残し方は 職員教育・訓練の設計、計画そのものの構成は 医療機関のインシデント対応計画 にまとめています。改定の全体像は 2026年度診療報酬改定のポイント をご覧ください。

まとめ

サイバー攻撃を想定したBCPで押さえるべき点は次のとおりです。

  1. 自然災害BCPと決定的に違うのは復旧期間が読めないこと。そして人はいるがシステムだけがない状態を想定すること
  2. 診療機能に優先順位をつける。会計・請求は初期の優先度が低くても長期化で資金繰りに効く
  3. RTO・RPOを数字で決める。 RPOはバックアップ取得間隔、RTOは復旧手順の文書化と検証で決まる
  4. 2026年度改定の加算1は**複数方式のバックアップ(一部オフライン)**を求める。外部媒体・自動転送・クラウド内の論理分離が例示されている
  5. 紙運用は現物の備蓄と戻し方まで設計する。「何日間、紙で回せるか」に数字で答えられることが目標
  6. 訓練は段階的に負荷を上げ、バックアップからの復元試験を必ず含める

BCPは既存の災害計画を土台にしつつ、サイバー固有の前提を足していく作業です。優先順位づけや復元試験の設計は、システム側の理解がないと詰め切れない部分があります。ポテックは医療情報システムの設計・運用の立場からご相談を受けています。お問い合わせ からご連絡ください。委託先事業者の事業継続体制を評価する視点は ISMS(ISO/IEC 27001)とは が参考になります。

参考・出典

※診療報酬の算定要件は告示・通知・疑義解釈により具体化され、改定・解釈の変更があり得ます。最新の内容は厚生労働省の公表資料をご確認ください。

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