コラム一覧に戻る
ISMS・認証取得12分で読める

ISMSとSOC 2の違い|海外取引・SaaS事業者の選択

2026年9月14日

ISMSとSOC 2の違い|海外取引・SaaS事業者の選択
この記事をシェア

海外の取引先、とくに米国企業とSaaSの契約を進めていると、「SOC 2レポートはありますか」と聞かれることがあります。日本国内でISMS(ISO/IEC 27001)認証を取得していても、この問いにISMSの認証書で答えると、話が噛み合わないことがあります。

理由は、両者が違う種類の成果物だからです。ISMSは第三者の審査機関が発行する**認証(certification)であり、認証書という1枚の証明が成果物になります。SOC 2は公認会計士(監査人)が作成する保証報告書(attestation report)**であり、成果物は数十ページの報告書です。「持っているか/いないか」で答えられるものと、「中身を読んでもらうもの」という違いがあります。

本記事では、両者の性質の違い、評価の基準、Type 1とType 2の区別、開示の仕方を整理し、日本のヘルスケア事業者にとってどちらが先かを考えます。ISMSそのものの全体像は ISMS(ISO/IEC 27001)とは|ヘルスケア企業のための完全ガイド をご覧ください。

免責:本記事は一般的な情報提供です。ISMSについては ISO/IEC 27001(JIS Q 27001)の規格本文および認定機関・審査機関の公表資料が、SOC 2については米国公認会計士協会(AICPA)が定める基準および実施する監査法人の説明が正本です。制度の詳細は改定され得るため、実際の対応は一次情報および実施主体にご確認ください。

認証と保証報告書 ― 性質が違う

最初に押さえるべき違いです。

ISMS(ISO/IEC 27001)SOC 2
成果物認証書(certificate)保証報告書(attestation report)
発行する主体認定を受けた審査機関(認証機関)公認会計士事務所・監査法人
根拠国際規格 ISO/IEC 27001米国公認会計士協会(AICPA)が定める保証業務の基準
表現されることマネジメントシステムが規格に適合していること定義された規準に対して、統制が設計され(また運用され)ていたことについての監査人の意見
公開性認証取得組織として公表され得る原則として開示先を限定して提供(NDAのもとで共有されることが多い)
主な使われ方「認証を保有していること」を示す報告書の内容を相手が読んで評価する

ここから、実務上の大きな違いが生まれます。ISMSは「持っている」と言えば伝わりますが、SOC 2は相手に読んでもらって初めて機能します。 米国企業のベンダーレビューでは、セキュリティチームが報告書を精査し、記載された統制と例外事項(exceptions)を確認するという運用が一般的です。

もう一つの違いは、評価の設計思想です。ISMSは「組織が自らリスクを評価し、適用する管理策を決め、その理由を適用宣言書(SoA)で説明する」というマネジメントシステムの適合性を見ます。SOC 2は「サービス提供組織が掲げた統制について、監査人が規準に照らして意見を述べる」という構造です。前者は仕組みの適合、後者は統制に対する意見と捉えると整理しやすくなります。

何を基準に評価するのか

ISMSの場合

本文(箇条4〜10)のマネジメントシステム要求と、附属書Aの管理策で構成されます。2022年版の附属書Aは93の管理策4テーマに整理されています。

テーマ管理策数
組織的管理策(A.5)37
人的管理策(A.6)8
物理的管理策(A.7)14
技術的管理策(A.8)34

93すべてを実施する義務はなく、リスクアセスメントの結果に基づいて採否を決め、その理由をSoAに記載します。 管理策の読み方は 附属書A 2022年版|93管理策と4テーマの全体像、SoAの書き方は 適用宣言書(SoA)の書き方 をご覧ください。

SOC 2の場合

SOC 2は Trust Services Criteria(TSC) と呼ばれる規準に基づきます。TSCは次の5つのカテゴリで構成され、Security(セキュリティ)が共通規準として基礎になり、それ以外は対象範囲として選択する形をとります。

カテゴリ概要
Security不正アクセス等からの保護。共通規準(common criteria)として位置づけられる
Availabilityシステムが合意した水準で利用可能であること
Processing Integrity処理が完全・正確・適時・許可されたものであること
Confidentiality機密として指定された情報の保護
Privacy個人情報の取得・利用・保管・開示・廃棄

どのカテゴリを対象にするかは、サービスの性質と顧客の関心によって決めます。SaaSであればSecurityに加えてAvailabilityとConfidentialityを含めるケースがよく見られます。どのカテゴリを含めたかは報告書に明示されるため、読む側はそこから対象範囲を判断します。

ISMSの適用宣言書とSOC 2の対象カテゴリは、いずれも「どこまでを対象にしたか」を示す点で似た役割を持ちます。認証書やレポート表紙だけを見て判断せず、範囲の記載を読むことが、どちらの制度でも要点になります。

Type 1 と Type 2 の違い

SOC 2を理解するうえで避けて通れない区別です。

Type 1Type 2
評価の対象特定時点における統制の設計一定期間にわたる統制の設計と運用の有効性
答えている問い「その日時点で、統制は適切に設計されていたか」「その期間を通じて、統制は設計どおりに運用されていたか」
必要な準備統制を整備し、その時点の状態を示せること統制を一定期間運用し、その証跡を蓄積していること
取引先の受け止め初回の暫定的な証明として受け入れられることがある実務上、こちらを求められることが多い

取引先が「SOC 2」と言うとき、多くの場合Type 2を指しています。 Type 2は運用期間の証跡が必要になるため、統制を整備してから報告書が出るまでに、対象期間ぶんの時間が物理的に必要です。対象期間の長さは事業者と監査人が合意して決めますが、初回は短めの期間で実施し、以降は年次で期間を延ばしていく運用が見られます(期間の設定は実施主体との調整事項です。要一次確認)。

この「運用期間が要る」という構造は、ISMSにおいて内部監査とマネジメントレビューを1周実施した記録が必要という制約とよく似ています。どちらも、文書を揃えただけでは到達できないという点で共通しています。ISMS側の逆算の考え方は ISMS取得にかかる期間|6か月スケジュールの実際 にまとめています。

なお、SOC 1・SOC 2・SOC 3は目的が異なります。SOC 1は財務報告に関連する内部統制を対象とするもので、セキュリティの証明として求められるのは通常SOC 2です。SOC 3はSOC 2の要約版として一般公開を想定した報告書です。取引先が指しているのがどれかを、最初に確認してください。

誰が、どう受け取るのか

開示の仕方の違いは、営業・調達の実務に直結します。

ISMSの場合:認証書を提示し、必要に応じて適用範囲と適用宣言書を共有します。認定機関のサイトで認証取得組織を検索できる仕組みもあり、相手が独自に存在を確認できるという利点があります。RFPの必須要件欄への記載にも対応しやすい形式です。

SOC 2の場合:報告書はNDAのもとで共有するのが一般的です。そのため、「SOC 2を持っています」とWebサイトに書いても、報告書を渡すまでは評価が始まりません。 逆に言えば、渡した瞬間に相手のセキュリティチームによる詳細なレビューが始まります。報告書には**例外事項(exceptions)**が記載されることがあり、それが商談の論点になることもあります。

この違いから、次のような使い分けが実際に起きています。

場面有効な制度
国内の医療機関・製薬企業・自治体の調達要件ISMS
国内企業の情報セキュリティチェックシート対応ISMS(SoAで具体的に説明できる)
米国企業のベンダーレビュー、エンタープライズSaaS契約SOC 2(Type 2)
欧州向けで個人データの取扱いが論点ISMS+ISO 27701などの組合せが検討対象
クラウドサービス提供者としての追加証明ISO 27017 / 27018

調達要件としてのISMSの扱われ方は ISMSが取引条件になるケース|医療機関・製薬・自治体の調達、認証以外の対応で足りる場合の判断は ISMS認証を取らない選択肢|チェックシート対応との比較 をご覧ください。

維持のサイクルの違い

ISMSSOC 2
初回1次審査(文書審査)→ 2次審査(実地審査)Type 1、またはType 2(対象期間の設定が必要)
維持毎年のサーベイランス審査(維持審査)通常は年次で報告書を更新(対象期間を連続させる運用が一般的)
更新3年ごとの更新審査(再認証)制度上の「更新」はなく、期間ごとの報告書が積み重なる
途切れたとき認証が維持できなくなる報告書の対象期間に空白(ギャップ)が生じる

SOC 2で注意したいのは「ギャップ」です。 報告書は対象期間についての意見であるため、期間が連続していないと、取引先から「その間はどうだったのか」を問われます。年次で切れ目なく更新する運用設計が必要になります。

ISMS側の維持については サーベイランス審査(維持審査)の準備、費用が3年サイクルでどう発生するかは ISMS取得費用の全体像|コンサル費・審査費・社内工数 にまとめています。

日本のヘルスケア事業者はどちらが先か

結論から言えば、国内の医療機関・製薬企業・自治体を主な取引先とするなら、まずISMSです。 理由は次のとおりです。

  1. 調達要件として指定されるのがISMSであることが多い。医療機関は3省2ガイドラインへの対応を求められる立場にあり、委託先にも同等の管理水準を求める構造が働きます
  2. 国内のチェックシート対応と親和性が高い。適用宣言書があると、管理策単位で「採用しているか、していないならなぜか」を説明できます
  3. 他の制度の土台になる。ISO 27017・27018(クラウド)、ISO 27701(プライバシー情報)はISMSを前提に積み上がります。3省2ガイドライン対応の文書もISMS文書を起点に整備できます

SOC 2を先に検討すべきなのは、次の場合です。

  • 米国企業が主要顧客で、ベンダーレビューでSOC 2 Type 2を明示的に求められている
  • エンタープライズ向けSaaSとして海外市場を主戦場にしている
  • 取引先が「ISO 27001では代替不可」と明確に回答している

最後の点は必ず確認してください。実務上、「ISO 27001の認証書+SoA+直近の内部監査結果」で足りるという判断になることは珍しくありません。SOC 2の対応は監査人の関与を伴う継続的な取り組みであり、要求が確定していない段階で着手すると負担だけが先行します。

判断の順序としては次のように考えると整理できます。

質問Yesの場合
国内のヘルスケア調達が事業の中核かISMSを先に
米国エンタープライズがSOC 2 Type 2を明示的に要求しているかSOC 2の検討を開始
要求は「セキュリティ認証」と曖昧か何の証明を求めているかを確認。多くはISMSで足りる
クラウド事業者としての証明も求められているかISMS+ISO 27017・27018
個人情報の取扱いが中心かISMSとPマークの違いISO 27701 を検討

両方が必要になった場合

海外展開が進むと、ISMSとSOC 2の両方を求められる状況が現実に発生します。このとき重要なのは、土台となる統制を一つにすることです。

  • アクセス制御、ログ、変更管理、脆弱性管理、委託先管理といった統制は、両制度で重複して問われます
  • 統制ごとの証跡(誰が・いつ・何を確認したか)を一元的に蓄積しておけば、両方の対応で使えます
  • 逆に、制度ごとに別の記録を作り始めると、運用が二重化して長続きしません

ISMSを先に構築していれば、リスクアセスメント、管理策の運用記録、内部監査の仕組みがすでに存在します。SOC 2の対応はその上に「対象期間の証跡」を整える作業として設計できます。文書体系を一元化する考え方は、3省2ガイドライン対応でも同じです。ISMS文書と3省2ガイドライン対応文書の統合 と、医療機関側が求められている内容をまとめた 3省2ガイドラインとは|医療情報システムの安全管理 もあわせてご覧ください。

まとめ

  1. ISMSは認証(certification)、SOC 2は保証報告書(attestation report)。前者は「持っている」と言えるもの、後者は「読んでもらう」もの
  2. 評価の基準が違う。ISMSは本文+附属書A 93管理策とSoA、SOC 2はTrust Services Criteria(Securityを共通規準とし、対象カテゴリを選択)
  3. SOC 2の Type 1は特定時点の設計、Type 2は一定期間の運用の有効性。取引先が指すのは多くの場合Type 2で、対象期間ぶんの時間が必要
  4. 開示方法が違う。ISMSは認証書の提示と第三者による確認が可能、SOC 2はNDAのもとで報告書を共有し、相手が精査する
  5. 国内ヘルスケアのBtoBならISMSが先。調達要件として指定されやすく、チェックシート対応や他制度の土台にもなる
  6. 両方必要な場合は、統制と証跡の土台を一つにしてそれぞれの様式に載せる。制度ごとに記録を分けると運用が破綻する

ポテックは、ヘルスケア領域に特化してISMS認証取得を支援しています。「取引先が求めているのはどの制度か」という見極めの段階からご相談いただけます。適用範囲の設計、規程・台帳・教材のひな形提供、進行管理、内部監査まで一貫してお引き受けし、製品側の技術的対策についてもご相談いただけます。

支援内容と料金は ISMS認証取得支援サービス をご覧ください。海外取引での要求への対応を含むご相談は お問い合わせ から承ります。

参考・出典

※SOC 2の規準・報告書の様式・対象期間の設定は、AICPAが定める基準および実施する監査人の説明が正本です。ISMSの要求事項・認証の取扱いは規格本文および認定機関・審査機関の公表資料をご確認ください。いずれの制度も改定され得ます。

この記事をシェア

関連記事

ISMS・認証取得

組織的管理策37項目の読み方

ISO/IEC 27001:2022 附属書A.5の組織的管理策37項目を、一つずつ訳すのではなく8つのグループに束ねて解説します。方針とガバナンス、資産と情報の分類、アクセスの方針、委託先とクラウド、脅威情報、インシデント管理、事業継続、法令遵守と点検。各グループで実務上どの文書・記録を作ることになるかを整理しました。

2026年9月14日
ISMS・認証取得

附属書A 2022年版|93管理策と4テーマの全体像

ISO/IEC 27001:2022 附属書Aの93管理策を、組織的37・人的8・物理的14・技術的34という4テーマの構造から俯瞰します。93すべてを実施する義務はないこと、採否を適用宣言書でどう説明するか、属性による分類の使いどころ、そしてヘルスケア企業がどの順で着手すべきかを整理しました。

2026年9月14日
ISMS・認証取得

人的管理策8項目の読み方

ISO/IEC 27001:2022 附属書A.6の人的管理策8項目を、入口・在職中・出口・働く場所・報告文化の5グループで整理します。既存の就業規則・雇用契約とどう接続するか、少人数組織で職務分離が成立しないときにどう説明するか、リモートワークをどこまで書くかを、ヘルスケア事業者の文脈で解説しました。

2026年9月14日
ISMS・認証取得

物理的管理策14項目の読み方

ISO/IEC 27001:2022 附属書A.7の物理的管理策14項目を5グループで整理し、オフィスを持たないフルリモート組織・クラウド専業のSaaS事業者がどこまでを適用除外にでき、どこを在宅勤務環境と委託先管理に振り替えるべきかを具体的に解説します。データセンターの扱い、媒体と廃棄、装置の社外持ち出しまで。

2026年9月14日
AIカルテ

AIカルテを見る

受付から診療記録、会計、レセプト、経営分析までを一つの循環でつなぐAIネイティブ電子カルテ。

製品ページを見る

ISMS取得支援という選択肢

適用範囲の設計から文書整備、教育、内部監査、審査機関とのやり取りまで。ポテックがヘルスケア企業のISMS(ISO/IEC 27001)認証取得を一気通貫で支援します。