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医療AI×電子カルテの導入事例|退院サマリ・音声カルテの公表データと読み方

2026年11月1日

医療AI×電子カルテの導入事例|退院サマリ・音声カルテの公表データと読み方
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この記事の要点

  • 公表されている電子カルテ×AIの事例は、退院サマリなどの文書ドラフト作成と、会話からの記録作成(音声カルテ)が中心です。いずれもAIは下書きを作り、医師やスタッフが確認する運用です。
  • 名古屋医療センターは、試験導入で退院サマリ1件の作成時間が平均28分から8分に短縮したと公表しています(富士通Japan、2025年11月19日)。年間約5,000万円以上の削減効果は、医師の時給1万円を想定した試算です。
  • 数字には、実測、見積り、試算が混ざっています。クリニックの音声カルテの「1件あたり6分」は、録音の長さから人手の記録時間を見積もった値で、実測ではありません。
  • 自院に取り入れるときは、導入前に現在の記録時間を測り、数週間の試用で確認時間を含めて比べるのが確実です。

「電子カルテにAIを載せると、実際にどのくらい楽になるのか」。導入を検討する院長や事務長がまず知りたいのは、機能の一覧よりも、すでに使っている医療機関の数字でしょう。本記事では、メーカーと医療機関が公式に発表した事例を3件取り上げ、何がどのように測られた数字なのかを整理します。そのうえで、クリニックが自院の判断にどう使えばよいかをまとめます。

本記事は2026年11月1日時点の公表情報にもとづく一般的な情報提供です。取り上げた数値は各社・各医療機関の発表値で、効果を保証するものではありません。

公表事例の全体像

今回確認した事例は、AIの使い方が2種類に分かれます。

事例発表元・日付対象AIの使い方公表された主な数値数値の性格
名古屋医療センター富士通Japan、2025年11月19日国立病院機構の病院(全診療科で本格運用)診療記録から退院サマリの下書きを作る退院サマリ1件の作成時間 平均28分→8分試験導入の結果。コスト削減は試算
正幸会病院(56床)ヘンリー、2026年6月29日56床の病院(実証期間 2026年4月20日〜6月5日)会話の音声入力と、記録・文書の生成全職種の記録業務 月約386時間の削減推計(導入前は電子カルテのログと聞き取り、導入後は実証中の実測)
クリニックの音声カルテアトミックソフトウェア、2026年8月3日利用クリニック(2026年5月に先行提供開始)診察の会話を録音し、カルテ記録を作る診療1件あたり6分、月24〜36時間相当の削減録音の長さから人手の記録時間を見積もった値

共通点は、AIが最終的な記録を確定するのではなく、下書きを作り、人が確認する運用になっていることです。

事例1:退院サマリを生成AIで下書き(名古屋医療センター)

富士通Japanは2025年11月19日、国立病院機構名古屋医療センターで、生成AIを使った医療文章作成支援サービスを退院サマリに対して本格運用し始めたと発表しました。運用開始は2025年10月31日で、全診療科が対象です。

  • 背景: 同センターは年間約1万6,000件の退院サマリを、電子カルテから必要な診療情報を選んで転記するなどして作成しており、医師の負担が課題でした。
  • 結果: 2024年12月に整形外科など複数の診療科で試験導入したところ、患者1人あたりの作成時間が平均28分から8分になり、7割以上の効率化を確認したとしています(20分の短縮で、約71%にあたります)。
  • コスト: 年間約5,000万円以上の削減効果が見込めるとしていますが、これは医師の時給を1万円と仮定した試算です。
  • 安全面: 生成AIに渡す診療情報の範囲を個別に選べるため、他の診療科での治療経過も把握でき、医療安全の面で有用だと確認したとしています。サービスはクラウド型ですが、専用回線の閉域ネットワークを使い、診療データを生成AIの学習に使わず、クラウド上に保存もしないと説明しています。HL7 FHIRにも対応しています。

退院サマリは入院のある医療機関の文書ですが、「カルテの記録を材料に、目的に合った文書の下書きを作る」という使い方は、クリニックの紹介状や診断書の下書きと同じ発想です。

事例2:音声入力と文書AIで記録業務を再設計(正幸会病院)

ヘンリーは2026年6月29日、大阪府門真市の正幸会病院(56床)と、クラウド型電子カルテに生成AIを組み込んで記録業務を見直す実証を行ったと発表しました。期間は2026年4月20日から6月5日です。

  • 運用: 職員は電子カルテの画面の中で音声入力し、チャートのデータと音声から文書をAIが作成します。AIが作成したすべての記録は、スタッフが確認し、承認してから確定します。
  • 病棟の記録: 従来は患者の観察、紙のメモ、バイタルのメモ、ナースステーションへの戻り、カルテへの転記という5つの手順でした。新しい手順では、ベッドサイドで会話を録音し、文字起こしの間にバイタルを入力する2つの手順になり、1件の記録は約1〜2分で、紙のメモと転記の手順がなくなるとしています。
  • 削減見込み: 全職種の記録業務で月約386時間(音声入力による記録で約188時間、文書AIによる要約などで約198時間)を見込んでいます。
  • 数字の前提: 月間の削減時間は推計です。導入前の時間は電子カルテのログとスタッフへの聞き取り(2026年4月)、導入後の時間は実証期間中の測定にもとづき、導入後の時間には確認と軽微な修正の時間が含まれます。発表では、結果は施設の規模、診療科、人員によって異なる可能性があるとも述べています。

事例3:クリニックの音声カルテ(アトミックソフトウェア)

クリニックの事例としては、アトミックソフトウェアが2026年8月3日に発表した「AI音声カルテ」があります。2026年5月に先行提供を始め、利用院が増えているとしています。

  • 公表数値: 積極的に使っているクリニックで、カルテ記録の作業に換算して月24〜36時間相当、診療1件あたり6分の削減としています。
  • 算出方法: 2026年7月1日から20日までの利用院の録音記録1,115件をシステムから取得し、録音の長さに応じて、人が手でカルテを記録した場合にかかる時間を見積もり、削減時間に換算しています。つまり実測ではなく見積りです。なお、6分に月240〜360件を掛けると24〜36時間になります(本記事の計算)。
  • 現場の声: 発表には複数のクリニックの医師のコメントが載っています。ある皮膚科クリニックの医師は「内容を確認して修正する程度で済むようになり」、スタッフの負担が大きく減ったと述べています。ここでも、AIの出力を人が確認する運用が前提になっています。

数字の読み方:5つの確認点

事例の数字は、そのまま自院の効果ではありません。使う前に次の5点を確認してください。

確認点見るべきこと今回の事例での例
1. 何を測ったか作成時間か、診察時間か、残業時間か3件とも「記録・文書の作成時間」が中心で、診察時間の短縮ではない
2. 実測か、見積りか計測した値か、換算した値かクリニックの6分は録音の長さからの見積り。正幸会病院の月386時間は推計
3. 確認時間を含むかAIの出力を直す時間が入っているか正幸会病院は確認・軽微な修正を含むと明記
4. 規模と診療科病院かクリニックか、診療科は何か退院サマリは入院のある病院の文書
5. 誰が発表したか第三者の検証か、販売元の発表か今回の3件は発表の範囲で第三者の検証は確認できていない

クリニックが自院で試すときの進め方

  1. 今の時間を測る: 導入前に、カルテ記載や文書作成にかかる時間を1〜2週間記録します。電子カルテのログがあればそれも使います。
  2. 対象を絞る: 最初は、診察の記録、紹介状、診断書の下書きなど1〜2つに絞ります。
  3. 確認時間を含めて比べる: AIの出力を読んで直す時間も含めて、導入前後を比べます。
  4. 確認者を決める: 誰が確認して確定するかを決めておきます。AIは下書きで、記録の責任は医療機関にあります。
  5. 情報の扱いを確認する: 診療データが外部の生成AIにどう渡され、学習や保存に使われるかを、契約と仕様で確認します。詳しい確認項目は AI音声カルテのセキュリティ確認ポイント と 医療機関で生成AIを使うときの注意点 にまとめています。

よくある質問

Q. 診察の時間も短くなりますか? 今回の3件で公表されているのは、記録や文書の作成時間です。診察そのものの時間の短縮を示した数値は、本記事で取り上げた発表の中にはありません。

Q. 退院サマリがないクリニックには関係ありませんか? 関係はあります。入院がなくても、紹介状、診断書、診療情報提供書など、カルテの内容を材料にした文書は多くあります。AIが下書きを作るという考え方は同じです。

まとめ

  • 公表されている電子カルテ×AIの事例は、文書の下書きと、会話からの記録作成が中心です。
  • 名古屋医療センターは退院サマリ1件の作成時間が平均28分から8分に、正幸会病院は全職種の記録業務で月約386時間の削減見込み、クリニックの音声カルテは1件あたり約6分の削減(見積り)と発表しています。
  • 数字は実測、見積り、試算が混ざっています。測り方と、確認時間を含むかを必ず確認してください。
  • 自院では、導入前の時間を測り、数週間の試用で確認時間を含めて比べるのが確実です。

AIの機能の全体像は 電子カルテのAIとは と AIネイティブ電子カルテのAI機能、製品を比べるときの観点は クリニック向けAI電子カルテ比較 と 音声入力電子カルテの比較、要約の仕組みは AI要約とは を参照してください。

ポテックへのご相談

ポテックは、AI機能を中心に設計したクリニック向け電子カルテ「AIカルテ」を提供しています。自院の記録業務にAIをどう取り入れるか、試用の進め方や情報の扱いの確認についても、お問い合わせからご相談いただけます。

よくある質問

Q. 電子カルテのAIは、実際にどのくらい時間を減らせますか?
A. 公表事例では、名古屋医療センターの退院サマリ作成が平均28分から8分(試験導入)、クリニックの音声カルテが1件あたり約6分の削減(録音の長さからの見積り)です。ただし測り方や対象が異なるため、そのまま自院の効果とは言えません。自院での試用で確認するのが確実です。
Q. AIが作った記録は、そのまま使えますか?
A. 公表事例はいずれも、AIが下書きを作り、医師やスタッフが確認・修正する運用です。正幸会病院の発表では、AI導入後の時間に確認と軽微な修正の時間が含まれ、すべての記録をスタッフが確認・承認してから確定します。
Q. 事例の数字は第三者が検証していますか?
A. 本記事で取り上げた3件の公式発表の範囲では、第三者による検証の記載は確認できませんでした。数字は各社と医療機関の発表値として読んでください。
Q. クリニックでも退院サマリのようなAI活用はできますか?
A. 退院サマリは入院のある病院の文書です。無床のクリニックでは、診察の会話から記録を作る音声カルテ、紹介状・診断書などの文書の下書き、問診の要約が主な対象になります。

参考・出典

  • 富士通Japan株式会社 プレスリリース「富士通Japan、生成AIを活用した医療文章作成支援サービスを名古屋医療センター様に導入し、退院サマリを対象に本格運用開始」(2025年11月19日)
  • 株式会社ヘンリー プレスリリース(株式会社PR TIMES掲載)「正幸会病院(56床)、Henry AIで記録業務を“AI前提”に再設計」(2026年6月29日)
  • アトミックソフトウェア株式会社 プレスリリース(PR TIMES掲載)「AI機能群『medicalforce intelligence』AI音声カルテにより、ひと月あたり最大36時間の業務時間を削減。さらに、2つのAI新機能リリースを発表」(2026年8月3日)
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