医療現場に入ってくるAIには、規制上まったく異なる2つの種類があります。電子カルテの音声入力や文書作成支援と、画像から病変を検出する診断支援AI。どちらも「医療AI」と呼ばれますが、前者は原則として医療機器ではなく、後者は**プログラム医療機器(SaMD)**として薬機法の規制を受け得ます。
この違いを理解していないと、導入検討時に確認すべき点を見落とします。本記事では、SaMDとは何か、どこで線が引かれるのかを整理します。
免責:本記事は一般的な情報提供です。医療機器該当性の判断は個別の製品ごとに行われ、制度も改定され得ます。実務では必ず最新の一次情報(厚生労働省・PMDA)および所管窓口へご確認ください。
SaMDとは何か
SaMD(Software as a Medical Device) は、日本の法令上はプログラム医療機器と呼ばれます。ハードウェアに組み込まれたソフトウェアではなく、それ自体が医療機器として機能するソフトウェアを指します。
医薬品医療機器等法(薬機法)では、一定の要件を満たすプログラムが医療機器の定義に含まれます。該当すれば、製造販売業の許可、そして製品ごとの承認・認証・届出といった規制の対象になります。
該当性は「開発者の意図」では決まらない
ここが最も重要な点です。あるソフトウェアが医療機器に該当するかどうかは、開発者が「医療機器ではない」と考えているかどうかで決まりません。 薬機法の定義に基づいて判断されます。
判断の観点は、大きく次の2つです。
- 疾病の診断・治療・予防にどの程度関与するか
- 不具合が生じた場合に人の生命・健康に与えるリスクがどの程度か
この2つが高いほど、医療機器に該当し、かつ規制の重いクラスに分類される方向に働きます。
該当しない例、該当し得る例
判断の感覚をつかむため、整理してみます。
医療機器に該当しないとされる例
- 体重や歩数などのデータを記録・表示・保管するだけで、加工・処理を行わないプログラム
- 個別の患者の状態に基づかない、一般論としての健康情報を提供するプログラム
- 診療の記録、予約管理、レセプト作成といった業務を支援するプログラム
医療機器に該当し得る例
- 画像から病変の候補を検出し、医師の診断を支援するプログラム
- 検査データを処理して疾患の可能性を提示するプログラム
- 治療方針の決定に直接関与するプログラム
つまり、「データを扱うだけ」なのか、「医学的な判断に関与する」のかが大きな分かれ目になります。
診断支援プログラムのクラス分類は、診断結果の重要性、不具合が生じた場合のリスク、そして医師の最終判断を支援するのか代替するのかといった観点から評価されます。
電子カルテのAI機能はどちらなのか
この整理を電子カルテに当てはめると、次のようになります。
| 機能 | 位置づけ |
|---|---|
| 音声からのカルテ記載生成 | 記録の作成支援。原則として業務支援 |
| 過去記録の検索・要約 | 情報の整理。原則として業務支援 |
| 紹介状・診断書の下書き生成 | 文書作成支援。原則として業務支援 |
| 算定漏れのチェック | 請求業務の支援。原則として業務支援 |
| 予約・受付の自動化 | 業務支援 |
| 画像から病変を検出 | 医療機器に該当し得る |
| 検査値から疾患の可能性を提示 | 医療機器に該当し得る |
AIネイティブ電子カルテが提供する機能の多くは、記録・文書・請求・予約といった業務の支援にあたります。一方、同じ画面の中に診断支援の機能を載せる場合、その部分は別の規制の枠組みで扱われる可能性があります。
AIネイティブ電子カルテの機能範囲は AIネイティブ電子カルテのAI機能とは?具体的にできること で扱っています。
ただし、個別の製品が該当するかどうかは製品ごとの判断です。 上記はあくまで一般的な整理であり、実際の判断は所管窓口への確認が必要です。
該当した場合に何が必要になるか
医療機器に該当すると、規制の対象になります。
- 製造販売業の許可:企業として許可を得る必要がある
- 製品ごとの手続き:クラス分類に応じて、届出・認証・承認のいずれかが必要
- 品質管理・安全管理の体制:市販後の不具合報告なども含む
- 広告規制:医療機器としての広告規制がかかる
規制の重さはクラス分類によって段階的に変わり、リスクが高いほど手続きが重くなります。
開発を促進する制度
規制が重いと開発が進まないため、国は促進策も整えています。
DASH for SaMD。 厚生労働省と経済産業省による「プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略」です。この枠組みのもと、医療機器該当性に関する相談は厚生労働省の担当課で一元的に受け付けられる体制がとられています。第2弾の戦略も公表されています。
二段階承認(リバランス通知)。 プログラム医療機器の特性を踏まえ、承認を段階的に行う取り扱いが2023年11月に示されました。一定の有効性が確認された段階で早期に承認し、その後の使用実績を踏まえて評価を進めるという考え方です。関連団体からは想定事例集も公表されています。
PMDAの体制強化。 2024年7月に、PMDAのプログラム医療機器の審査体制が審査室から審査部へ改組され、体制が拡充されています。PMDAからは「プログラム医療機器の薬事開発・承認申請に関する手引き」も公開されています。
医療機関が導入時に確認すべきこと
規制対応は基本的に開発企業側の責任ですが、導入する医療機関にも確認すべき点があります。
その機能は医療機器なのか、業務支援なのか。 ベンダーに明確に確認します。診断支援を謳う機能であれば、医療機器としての承認・認証を受けているかを確認します。
承認を受けている場合、その範囲。 承認された使用目的・対象・条件の範囲内で使う必要があります。「この検査には使えるが、あの検査には想定されていない」という区別が生じます。
診療報酬上の評価。 医療機器として承認されていることと、診療報酬上で評価される(点数がつく)ことは別です。導入コストの回収を考えるなら、この点を分けて確認する必要があります。
最終的な判断の責任。 これが最も重要です。AIを用いた診断・治療の支援プログラムを利用する場合であっても、最終的な判断の責任は医師が負うという整理がなされています。AIの出力をそのまま採用して問題が生じた場合、責任がAIに移るわけではありません。
責任の線引きについては AIに任せてよい業務・任せてはいけない業務の線引き で詳しく扱っています。
生成AIとの関係
近年の生成AIは、既存の規制の枠組みに単純には収まりにくい性質を持ちます。出力が確率的で、同じ入力に対して常に同じ結果を返すとは限らないためです。
現時点で医療現場に導入されている生成AIの多くは、記録・要約・文書作成といった業務支援の領域にあります。この領域では、出力を人が確認して確定させる運用が前提となるため、規制上の位置づけと運用上の安全性が整合しやすくなっています。
医療機関での生成AI利用の法的整理は 医療機関で生成AIを使うときの注意点|法的整理・サービス選定・セキュリティの実践ガイド で扱っています。
まとめ
- SaMD(プログラム医療機器) は、それ自体が医療機器として機能するソフトウェア
- 該当性は開発者の意図ではなく薬機法の定義で決まる。判断の観点は「診断・治療・予防への関与の程度」と「不具合時のリスク」
- 記録・表示・保管のみのプログラムや業務支援のプログラムは、原則として非該当
- 画像からの病変検出や検査値からの疾患可能性の提示は該当し得る
- 電子カルテのAI機能の多くは業務支援だが、診断支援を載せる場合はその部分の扱いが変わる
- 国はDASH for SaMD、二段階承認、PMDAの審査体制強化といった促進策を整えている
- 医療機関は、医療機器か業務支援か/承認の範囲/診療報酬上の評価/責任の所在を分けて確認する
- AIを用いた支援を利用しても、最終的な判断の責任は医師が負う
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