コラム一覧に戻る
医療情報セキュリティ9分で読める

二要素認証は令和9年度にどこまで必須か|電子カルテ・サーバ・VPN

2026年11月5日

二要素認証は令和9年度にどこまで必須か|電子カルテ・サーバ・VPN
この記事をシェア

「令和9年度から電子カルテに二要素認証が義務になる」と聞いて、何を、いつまでに変えればよいか迷っている医療機関は多いと思います。令和8年6月の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」第7.0版で、対象と期限の考え方が明確になりました。

結論から言うと、令和9年4月1日に全システムが一斉に切り替わる、という決まりではありません。令和9年度時点で稼働しているシステムを新規導入・更改するときに二要素認証を採用すること、間に合わない場合は令和9年度以降の直近の更新までが期限です。本記事では、電子カルテ(端末)、サーバ、VPNに分けて、原文にもとづき整理します。

本記事は2026年11月5日時点で厚生労働省が公表している資料にもとづく一般的な解説です。自院のシステムが要件を満たすかは、事業者への確認と最新のガイドラインでご判断ください。

ガイドラインの原文

システム運用編の遵守事項には、次のように書かれています。

令和9年度(令和 9 年 4 月 1 日時点)時点で稼働していることが想定される医療情報システムを、今後、新規導入又は機器の入替等を伴うシステム更改をするに際しては、二要素認証を採用、又はこれに相当する対応を行うこと。なお技術的な理由等により令和9年度までの対応が困難な場合には、令和9年度以降、直近の次期の医療情報システムの更新までを期限とする。

続けて、「クライアント端末とサーバのいずれも二要素認証の実装を要する」「クライアント端末では電子カルテ等のアプリケーションのログイン時に二要素認証を実装すること」「サーバについては OS での二要素認証を実装すること」と定めています。

なお、チェックリストマニュアルによると、この考え方は令和3年1月の第5.1版以降すべての版で示されてきました。第7.0版では、通知のとおり「クライアント端末及びサーバにおいて対応することを明確化」し、令和9年4月1日時点で対応が難しい医療機関等には次期システム改修での対応を許容する緩和措置が設けられました。

対象の整理(表14-1)

アプリケーションミドルウェアOS
クライアント端末要※――
サーバ――要

※ ガイドラインの注記:認証した情報をアプリケーションの資格情報等と連携し、適切な権限付与が可能な場合は、OSやミドルウェアでの二要素認証も許容されます。ただし「OSで一要素、アプリケーションで一要素」のような認証は許容されません。

二要素認証の例として、チェックリストマニュアルは「パスワード+指紋認証」「ICカード+パスワード」「ICカード+指紋認証」を挙げています。

電子カルテ(クライアント端末)

対象は、電子カルテ等のアプリケーションにログインするときの認証です。

ガイドラインは、提供する事業者が技術的に対応していないために二要素認証を実装できないケースも想定しています。そのため、令和9年度までにシステムを更新する場合は、二要素認証に対応したアプリケーションやサービスを選ぶことが求められています。間に合わない場合は、令和9年度以降の直近の更改・新規導入までが経過措置です。

院内でやること:

  • 使っている電子カルテが二要素認証に対応しているか、事業者に確認する
  • 次の更改・リプレースの時期を確認し、選定の要件に二要素認証を入れる(電子カルテ更新時のセキュリティ要件)
  • 二要素認証を使うまでの間、パスワードは13桁以上にする(チェックリスト2-⑦)

医療機器への二要素認証は、第7.0版では改変が見送られました。チェックリストマニュアルは、マニュアル公開時点では医療機器への実装・実装予定を必須とはしないとしつつ、二要素認証を採用している医療機器を積極的に選ぶことを推奨しています(ネットワーク接続医療機器のセキュリティ)。

サーバ

対象は、医療情報を格納するサーバのOSにログインするときの認証です。ガイドラインは、サーバではアプリケーションを介さずにデータベースにアクセスできるため、OSでの二要素認証が合理的だと説明しています。

「みなし措置」

サーバOSの二要素認証は、院内のネットワークやシステムの大規模な作り直しが必要になる場合があります。そのため、次の①②のいずれか、またはそれと同等以上の措置があれば、二要素認証を実装できているものとみなされます。

① 次の2つを満たすもの

  • サーバ群へのアクセスを、別ドメインに置いた踏み台端末からのRDPやSSH等による接続だけに限定する
  • 踏み台端末のOSログイン時に二要素認証を実装する

② 次の3つを満たすもの

  • サーバ群へのアクセスを、別ドメインに置いた踏み台端末からのRDP、SSH等による接続に限定する
  • 踏み台端末にEDR機能を備え、運用上想定されない振る舞いを検知できるようにする(EDR製品でなくても、Windows標準機能等で振る舞い検知ができればよい)
  • 院外からの接続はVPNを経由し、踏み台端末へのRDP、SSH等による接続に限定する

どちらの場合も、次の3つが前提です。満たさない場合は十分な措置とはみなされません。

  • 外部から踏み台端末にログインするユーザに管理者権限を与えない
  • 十分なOSのセキュリティアップデート
  • サーバ群と踏み台端末で共通のパスワードを使わない

「同等以上の措置」とは、例えば医療法に基づく立入検査の際に、同等であることを検査職員に説明できることなどが想定されています。

また、マニュアルは、セキュリティデバイスの破損などに備えて、緊急時の代替手段(バイパス)を用意し、使ったときに管理できる体制を整えておくことが重要としています。

VPN

VPN装置は、表14-1の「二要素認証が必須」の対象には入っていません。ただしガイドラインは、VPN装置でもパスワードの使い回しや単純なパスワードによる被害が多発しているとして、記憶による認証だけに頼らず、二要素認証等を導入することが望ましいとしています。

あわせて、次の点も押さえておきます。

  • リモートメンテナンスでは、OSの二要素認証、特権IDの厳格な管理(管理者共通アカウントの禁止等)、アクセス経路の制限、RDPやVNCを直接インターネットに公開しないこと等が「実施すべき事項」として示されています
  • チェックリストでは、リモート保守を使っている機器の有無を事業者に確認すること(2-②)と、接続元制限(2-⑭)が求められています

保守用VPNを含む外部接続点の棚卸しは、VPN機器の脆弱性対策で手順を解説しています。

チェックリストでの書き方

令和8年度のチェックリストでは、次の2項目が該当します。

  • 2-⑪ アプリケーションログイン時の二要素認証を実装している。または令和9年度以降初回のシステム更改時に実装予定である。
  • 2-⑫ OSログイン時の二要素認証を実装している。または令和9年度以降初回のシステム更改時に実装予定である。

まだ実装していなくても、令和9年度以降の初回の更改時に実装する予定であれば「はい」を付けられる書き方です。予定を裏付けるために、事業者との打ち合わせ記録や更改計画を残しておくと安心です。チェックリスト全体は令和8年度サイバーセキュリティ対策チェックリスト全項目解説、導入時の運用上の工夫は多要素認証の導入で解説しています。

ポテックのご支援

ポテックは、医療機関・ヘルスケア企業向けに3省2ガイドライン対応やリスクアセスメント、ISMS(ISO 27001)認証取得を支援しています。二要素認証の対象となるシステムの洗い出しや、更改計画の整理については、お問い合わせからご相談ください。

参考資料

この記事をシェア

関連記事

医療情報セキュリティ

多要素認証の導入|医療現場の制約を前提にした現実的な落としどころ

どこから多要素認証を入れるか(リモートアクセスと特権IDが最優先)、共用端末・緊急時・夜勤帯という医療現場固有の運用負荷にどう向き合うか、そして全職員への一斉導入を目指さずに被害確率を下げる現実的な設計を整理します。

2026年9月14日
医療情報セキュリティ

令和8年度サイバーセキュリティ対策チェックリスト全項目解説

令和8年6月に医療機関・薬局用が統合された厚労省のチェックリスト全19項目を、立入検査で見られる現物、事業者確認用との分担、「いいえ」の場合の目標日の書き方まで整理しました。

2026年9月14日
医療情報セキュリティ

なぜ二要素認証が必要なのか?オンライン診療サービスの情報漏洩事件から考えるセキュリティ対策

MICIN社のオンライン診療サービスで、他サービスから流出したIDとパスワードを使うリスト型攻撃による不正ログインが発覚しました。事案の概要と、二要素認証が必要な理由、クリニックが今すぐやるべきことを整理します。

2026年10月31日
医療情報セキュリティ

電子カルテ更新時のセキュリティ要件|移行期が最も危ない

電子カルテの更新プロジェクトで、最もリスクが高いのは移行期です。全患者データの持ち出し、新旧システムの並行稼働、旧システム・旧媒体の廃棄——この3つの局面で何が起きるのか、移行業者をどう管理するのか、旧媒体をどう処分するのかを、発注側が押さえるべき要件として整理します。

2026年9月14日
医療情報セキュリティ

安全管理ガイドライン第7.0版の変更点|医療機関がすべきこと

令和8年6月に策定された「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」第7.0版。保守委託機関編の新設、パスワード要件の変更、二要素認証の対象明確化など、主な変更点と医療機関の対応を厚労省資料にもとづき整理します。

2026年11月5日
医療情報セキュリティ

情報漏洩時代にクリニックが守るべきセキュリティ対策|漏洩の経路別に優先順位とチェックリストを整理

クリニックの情報漏洩は、人のミス・パスワードの突破・外部からの攻撃・委託先の4経路で起きます。公的データをもとに、経路ごとに何から手をつけるかと、今週できるチェックリストを整理します。

2026年10月31日
AIカルテ

AIカルテを見る

受付から診療記録、会計、レセプト、経営分析までを一つの循環でつなぐAIネイティブ電子カルテ。

製品ページを見る

ISMS取得支援という選択肢

適用範囲の設計から文書整備、教育、内部監査、審査機関とのやり取りまで。ポテックがヘルスケア企業のISMS(ISO/IEC 27001)認証取得を一気通貫で支援します。