内科は、日本で最も競争の激しい診療科です。内科を標榜する診療所は全国に約64,747施設あり、これは診療所全体の61.7%を占めます。診療所勤務医の36.2%が内科医とされ、「患者が最初に受診する科」であるがゆえに開業スタイルとの親和性が高い一方、供給過多とレッドオーシャン化が構造的な前提となっています。
この飽和市場に、2026年は二つの制度的な地殻変動が重なりました。
1. マクロ環境 — 2026年の二つの地殻変動
かかりつけ医機能報告制度(2025年4月施行)
特定機能病院・歯科を除く全病院・診療所が報告対象となり、毎年1〜3月にG-MIS(医療機関等情報支援システム)を通じて自院の「かかりつけ医機能」を都道府県知事へ報告し、その情報が住民に公表されます。初回報告は2026年1〜3月に実施される見込みとされています。
報告は次の二つに整理されます。
- 1号機能:院内掲示、17診療領域のうち最低1領域での一次診療、40対象疾患への対応
- 2号機能:時間外診療体制、入退院支援、在宅医療提供、介護連携
高齢化率29.3%(2024年時点)を背景とした「地域完結型医療」への転換を制度で後押しするものです。内科クリニックにとっては事務負担であると同時に、自院の強みを地域へ可視化する機会でもあります。
2026年度診療報酬改定
生活習慣病管理を中核に据えた再編が行われ、内科経営に直結しました(詳細は第3章)。全体としては、デジタル活用・情報連携・体制整備をより高く評価する方向に動いています。在宅分野でも「体制を整え、連携できる医療機関が選ばれる時代」への移行が示唆されています。
つまり、単なる外来回転数ではなく、慢性疾患の継続管理・多職種連携・DX対応の巧拙が収益差を生む局面に入りました。
2. 新規開業クリニックの特徴
新規開業の内科クリニックには、飽和市場を前提とした「差別化設計」の色が濃くなっています。テナント開業の資金目安は約5,000万〜1億5,000万円(設計・内装2,000〜5,000万円、医療機器1,000〜5,000万円)とされます。
立地面では、大都市部が専門特化型に埋め尽くされつつあるため、一般内科のみで勝負する場合は「郊外の発展地域」を選択肢に入れるべきとされています。
成功要因として挙げられるのは次の5点です。
- コンセプトの明確化(「何をする/何をしないか」を開業前に決める)
- 地域の医療機関との連携体制構築
- レセプト平均点数が高く高齢社会に適合する在宅診療の導入
- Web広告を含む複数媒体でのマーケティング
- 土日祝診療など利便性の向上
近年はこれらに加え、開業初期から自費メニュー(メディカルダイエット等)やオンライン診療を組み込み、保険診療の単価が抑制されるなかで収益源を複線化する設計が目立ちます。標榜科としても「内科・消化器内科」「糖尿病内科」のようにサブスペシャリティを前面に出し、64,747施設のなかでの識別性を確保する動きが一般化しました。
要するに、「一般内科の看板だけで開ける時代」から「専門性×利便性×自費・DXの複線収益を設計してから開ける時代」への移行です。
3. 内科特有の収益領域
生活習慣病管理料の再編(2026年度改定の核心)
内科の保険診療収益の要は生活習慣病管理です。2026年度改定では以下が変わったと解説されています。
| 項目 | 変更の要点 |
|---|---|
| 生活習慣病管理料(Ⅰ) | 糖尿病患者が他疾患の自己注射指導管理料を別途算定可能に。血液検査を「6か月に1回以上」実施することが必須化 |
| 生活習慣病管理料(Ⅱ)の併算定 | 従来5項目から約30項目以上へ拡大(特定薬剤治療管理料、喘息治療管理料、認知症専門診断管理料等を追加) |
| 眼科・歯科連携加算 | 患者同意のうえ連携した場合、年1回まで算定可能(新設) |
| 療養計画書 | 患者署名を廃止し、運用を簡素化 |
実務インパクトは三点に集約されます。第一にレセコン・電子カルテの改修、第二に6か月検査の漏れ防止のための検査セット見直し、第三に眼科・歯科連携フローの整備です。
署名廃止は現場のオペレーション負担を軽減し、併算定の拡大は複数疾患を持つ高齢患者の管理を収益化しやすくする方向に働きます。一方で、約30項目以上に拡大した併算定の可否を手作業で判断することは、現実的でなくなりました。
かかりつけ医機能・慢性疾患管理
制度化を受け、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの継続管理、予防医療(健診・予防接種)、専門医への紹介/逆紹介と介護連携のハブ機能が、内科の中核的役割かつ収益基盤として明確に位置づけられました。健診・予防接種は自治体・企業健診とあわせて安定的な集患チャネルになります。
発熱外来・オンライン診療
発熱外来はコロナ禍以降も内科の集患・地域機能の一部として定着しています。
オンライン診療は2022年4月改定で「一時的措置」から「恒久的な柱」へ転換し、初診からのオンライン診療が正式化されました。初診利用件数は2022年から2025年で3.2倍に増加したとされます。運用要件としては、映像+音声での診察(電話のみの初診は不可)、施設基準の届出、本人確認(マイナンバーカード対応推奨)、対面切替基準の診療計画への明記が挙げられます。高血圧・糖尿病の安定期フォローをオンラインで完結させるガイドライン整備や、2026年度中の電子処方箋対応が論点です。
在宅医療・訪問診療
在宅はレセプト単価が高く高齢社会適合性が高いため、内科クリニックの成長領域として重視されています。2026年度改定では医療DX推進(情報共有の高度化)、医師が遠隔診察し看護師が現地対応する「D to P with N」体制の制度化、デジタル活用・情報連携・体制整備への加算評価シフトが進みました。運用負担は増しますが、連携体制を整えた医療機関が選ばれる構図が強まっています。
4. 自費診療領域
保険診療の単価抑制が続くなか、内科クリニックが収益を複線化する手段として自費診療の導入が広がっています。
とくに顕著なのがメディカルダイエット(GLP-1/GIP・GLP-1受容体作動薬) です。ウゴービ・ゼップバウンド・マンジャロ等を用いた肥満・体重管理外来を掲げる内科クリニックが都市部を中心に急増しました。糖尿病内科がその薬理知識を活かして参入するケースが目立ち、専門性と自費の親和性が高い領域です。
自費メニューの価格帯の実例として、あるクリニックの公表メニューを挙げます(同院公表値、時点により変動)。
| メニュー | 価格例 |
|---|---|
| 肥満症治療(マンジャロ 2.5mg/5mg/7.5mg) | ¥4,500/¥8,000/¥12,500(1本) |
| 注射製剤導入・指導料 | ¥2,000(初回のみ)/採血 ¥4,000 |
| AGA(フィナステリド1mg 28錠〜84錠) | ¥5,000〜¥14,000 |
| AGA(ミノキシジル内服5mg 30錠〜90錠) | ¥11,000〜¥32,000 |
| ED(バイアグラGE 50mg/シアリスGE 10mg) | ¥1,000/¥1,300(1錠) |
| プラセンタ(メルスモン注射) | ¥1,000(1A) |
このほか、各種点滴(にんにく注射・高濃度ビタミンC・疲労回復点滴等)、自費ワクチン(帯状疱疹・肺炎球菌・インフルエンザ・トラベルワクチン等)、プラセンタ療法が内科クリニックの定番自費メニューとして普及しています。自費は保険診療の合間に提供でき、機器投資が比較的軽く、QOL向上・美容・予防を訴求できる点で親和性が高い領域です。
一方で留意点も明確です。GLP-1の適応外・美容目的使用は学会・行政から安全性の観点で注意喚起の対象となりうること、医療広告ガイドラインへの準拠、同一患者・同一日での保険診療との切り分け(混合診療の禁止)といったコンプライアンスが前提となります。自費は「保険診療を補完する収益源」として位置づけ、集患の主軸を自費に置きすぎない設計が経営上は堅実です。
5. 経営上の示唆
内科は最多標榜科ゆえに供給過多であり、「一般内科の看板」だけでの経営は年々厳しくなっています。2026年度改定とかかりつけ医機能報告制度の二つが、収益と評価の軸を「外来の量」から「慢性疾患の継続管理・多職種連携・DX対応の質」へと移しました。
実務的な打ち手は三層で整理できます。
第一に、保険診療の土台強化。 生活習慣病管理料の改定(6か月検査の必須化、併算定拡大、署名廃止、眼科・歯科連携加算)に対応し、レセコン改修と検査運用の抜け漏れ防止を徹底します。
第二に、機能とチャネルの拡張。 かかりつけ医機能報告を自院の強みの可視化に活かし、在宅・訪問(D to P with N含む)、オンライン診療、健診・予防接種で集患チャネルと単価を複線化します。
第三に、自費による収益補完。 GLP-1メディカルダイエットを筆頭に、点滴・自費ワクチン・AGA・プラセンタ等を、広告規制と混合診療禁止を守りながら補完的収益源として設計します。
差別化の起点は「何をする/何をしないか」の明確化にあります。専門性(例:糖尿病・消化器)×利便性(土日診療・オンライン)×自費・DXの組み合わせを開業前後から設計できるかが、飽和市場での生存確率を左右します。
6. AIカルテはこの課題にどう効くか — 機能単位で見る
内科の経営課題は「医師の記録負担」と「情報連携」に集約されます。ここがAIカルテの直接の接点です。AI音声入力の導入でカルテ入力時間を8割以上削減した実証結果があり、2025年10月の医療法人社団生和会グループの事例では3か月で約2,000時間の業務削減が報告されています。NTTコミュニケーションズと奈良県の2023年実証では、医療従事者がカルテ入力に勤務時間の約3割を費やしていることが判明したとされ、削減余地は大きいと言えます。
ポテックのAIカルテを、内科の課題ごとに機能単位で見ていきます。
機能1:カルテ・オーダー作成 — 患者数の多さそのものが効果になる
診察中の音声をAIが整理し、そのままSOAP形式のカルテとして記録します。Web問診・紙問診票のカメラ読み取りも自動でデータ化し、検査・処方・処置はセットオーダーでワンクリック入力できます。
内科は患者数・記録量が最も多い診療科です。1件あたり数分の短縮でも、1日60〜100人規模の外来では1日あたり数時間の差になります。生活習慣病管理では療養計画・指導記録の作成が繰り返し発生するため、テンプレート+音声入力の組み合わせが直接効きます。療養計画書の患者署名が廃止され運用が簡素化された流れとも整合します。
機能2:会計・レセプト管理 — 併算定30項目超を人手で判断しない
自動算定エンジンが包括・背反・回数制限をチェックし、加算の算定可否を自動判定します。
2026年度改定で生活習慣病管理料(Ⅱ)の併算定対象が従来5項目から約30項目以上へ拡大しました。特定薬剤治療管理料、喘息治療管理料、認知症専門診断管理料といった項目の可否を、患者ごと・月ごとに手作業で確認するのは非現実的です。併算定の判定を自動化できるかどうかが、そのまま改定への対応力になります。 加えて、血液検査の「6か月に1回以上」という新要件は、実施漏れが算定要件そのものを崩す性質のものです。オーダー履歴から未実施を検知できる仕組みが、収益防衛に直結します。
機能3:文書作成 — 連携加算を回すコストを下げる
患者情報をもとに紹介状・診断書をAIが自動下書きし、医師の確認・修正を経て出力します。クリニック独自のテンプレートを登録すれば、自院の文体・様式を保ったまま出力できます。
2026年度改定で新設された眼科・歯科連携加算は、糖尿病患者を眼科・歯科につなぐ連携を評価するものです。連携を評価する制度が増えるほど、紹介状作成の手間が連携の実行率を決めるようになります。1通あたりの作成時間が下がれば、加算算定の機会損失が減ります。専門医への紹介/逆紹介がかかりつけ医機能の中核と位置づけられたことも同じ方向を向いています。
機能4:外部連携・API — かかりつけ医機能報告と電子処方箋に備える
OAuth2ゲートウェイ、MCPサーバー、HAPI FHIR、LINE Messaging APIに対応し、外部システムや受付端末と連携できます。
かかりつけ医機能報告制度は、17診療領域での一次診療、40対象疾患への対応、在宅医療の提供実績といった情報を毎年報告する仕組みです。これらは本来、日々の診療記録のなかに存在する情報です。データが構造化されているかどうかが、報告作業を「集計」で済ませられるか「調査」から始めるかの分かれ目になります。2026年度中が論点とされる電子処方箋対応や、在宅分野で進む情報共有の高度化も同じ基盤の上にあります。
機能5:患者向けPHRアプリ「ポテ君」連携 — 継続受診を仕組みで支える
院内のAIカルテと患者向けPHRアプリが同じデータ基盤上で連動します。受診予約・QR診察券、処方箋のOCR取り込みと服薬リマインダ、事前Web問診、診療費通知、LINEログインとPush通知に対応します。
生活習慣病の継続管理は、患者が通い続けることで初めて成立します。通院中断は内科クリニックにとって最大の収益リスクであり、服薬リマインダと次回予約のPush通知はそこに直接効きます。オンライン診療の初診利用が3.2倍に伸びた流れのなかで、対面とオンラインを患者側の導線でつなげられるかも重要になります。
機能6:経営分析ダッシュボード — 保険と自費を分けて見る
来院実績・患者単価・月次推移・患者属性を自動集計し、可視化します。
内科でGLP-1等の自費を導入すると、保険診療と自費が同じ診療枠のなかに混在します。両者は単価も原価構造もまったく異なるため、混ぜて見ていると「どちらで儲かっているのか」が見えません。メニュー別・時間帯別の採算が見えて初めて、枠配分と価格設定の判断ができます。自費を補完的収益源として健全に運用するうえでも、切り分けた可視化は前提条件です。
AIカルテは単なる時短ツールではなく、改定が求める「連携できる医療機関」への転換を支える基盤です。内科は患者数・記録量が多く、投資対効果が最も出やすい診療科と言えます。
出典(主要)
- 船井総合研究所「生活習慣病管理料(I)(II)はどう変わる?2026年改定の内科経営への影響と算定のポイント」 https://byoin-clinic-keiei.funaisoken.co.jp/blogs/column/life-0475
- ユヤマ公式コラム「2025年4月施行!かかりつけ医機能報告制度 完全解説」 https://www.yuyama.co.jp/column/clinic/primary-care-physician-function-reporting-system/
- DtoDコンシェルジュ「内科の医院開業動向情報」 https://www.dtod.ne.jp/open/tips/trend-department/details/naika.php
- Lオペ コラム「【2026年最新】オンライン診療の規制動向まとめ」 https://l-ope.jp/clinic/column/online-clinic-regulation-trends-2026
- ひのでクリニック「在宅医療はどう変わる? 2026年診療報酬改定のポイント」 https://hinode-clinic.com/blog/188385
- 千葉駅前糖尿病内科クリニック「自費治療一覧」 https://www.ekikuri.com/zihitiryo
- CLIUS クリニック開業マガジン「カルテ入力時間を8割削減 — AI音声入力が変えるクリニックの1日」 https://clius.jp/mag/2026/03/06/karte-ai-nyuryoku/
- シーユーシー・アドバイザリー・パートナーズ「内科の業界動向2025」 https://www.cuc-jpn.com/cucap/24135/