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AIネイティブ電子カルテの役割は、クリニックと病院で異なる

2026年8月7日

AIネイティブ電子カルテの役割は、クリニックと病院で異なる
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「AIネイティブな電子カルテ」と一括りに語られがちですが、それが果たすべき役割は、導入先がクリニックなのか病院なのかで大きく変わります。無床診療所と数百床の急性期病院では、抱えている制約も、人がやるべき仕事の中身も違うからです。本記事では、この二つの方向性を「クリニックは無人化、病院は余白づくり」という軸で整理し、なぜそれが日本全体の働き方に関わるのかまで踏み込みます。

免責:本記事は一般的な情報提供です。統計数値は公表時点のものであり、改定・更新され得ます。実務では必ず最新の一次情報(総務省統計局・厚生労働省等)をご確認ください。

AIネイティブ電子カルテそのものの定義は AIネイティブ電子カルテとはどんなものなのか? で整理しています。

前提:医療従事者はどれだけの規模なのか

議論の前に、まず数字を押さえます。医療の働き方を変えることにどれだけの意味があるのかは、この規模感で決まります。

総務省統計局「労働力調査(基本集計)」の2025年平均によれば、日本の就業者数は6,828万人。このうち産業分類「医療,福祉」の就業者は947万人でした。割合にすると約13.9%、およそ7人に1人が医療・福祉の現場で働いている計算になります。

注目すべきは、その増え方です。2025年平均で前年から最も就業者が増えた産業が「医療,福祉」であり、+25万人。同じ期間に製造業は13万人、卸売業・小売業は16万人減っています。

産業就業者数(2025年平均)前年差
製造業1,033万人−13万人
卸売業,小売業1,029万人−16万人
医療,福祉947万人+25万人
サービス業(他に分類されないもの)482万人+16万人
情報通信業302万人+10万人

「1割」という言い方には注意が必要

医療従事者の規模を語るとき「就業者のおよそ1割」と表現されることがありますが、この数字は何を数えるかで変わります

上記の13.9%は産業分類「医療,福祉」の数値で、介護・福祉を含みます。実際、直近の増加分の大半は介護・福祉分野によるものです。一方、医療分野だけを取り出すとこれより小さくなります。令和2年国勢調査の抽出詳細集計では「医療,福祉」の就業者763万人のうち、病院・一般診療所・歯科診療所といった医療業と、老人福祉・介護事業などがそれぞれ大きな比重を占めており、医療分野に絞った場合は概ね6%前後という水準感になります。

主要な医療専門職の実数で見ると、次のとおりです。

職種人数出典・時点
看護職員(看護師・准看護師・保健師・助産師の計)約169.8万人2024年末 就業者数
医師(医療施設従事)約33.1万人2024年
薬剤師(届出)約32.9万人2024年12月31日現在

つまり「医療従事者は全就業者の1割」という言い方は、介護・福祉まで含めれば控えめ(実際は約14%)、医療分野に限れば大きめということになります。いずれの数え方でも、日本の労働市場において無視できない塊であることは変わりません。

2040年にはさらに比重が増す

厚生労働省の推計では、医療福祉分野の就業者は2040年に1,070万人程度(就業者全体の18〜20%程度)が必要になる一方、確保できるのは974万人にとどまり、約96万人が不足すると見込まれています。2018年時点が823万人(12.5%)でしたから、比率は着実に上がり続け、働く人の5人に1人が医療福祉に関わる時代が視野に入っています。

働き手が減る社会で、この分野だけが人を増やし続けなければならない。ここに、テクノロジーで仕事そのものを減らす必然性があります。

クリニック向け:目指すのは「限りなく無人で回る」電子カルテ

クリニック、とくに地方の無床診療所が直面しているのは、効率化以前の問題です。そもそも人が採れない、という問題です。

事務スタッフが1〜2名という体制は珍しくありません。受付、電話対応、問診、会計、レセプト業務——これらを少人数で回しているため、1人が辞めたり体調を崩したりするだけで診療体制が揺らぎます。院長が診療の合間にレセプトを点検している、という光景も日常的です。

この状況で電子カルテに求められる役割は、「スタッフの作業を速くすること」ではありません。スタッフがいなくても医療が継続できる状態をつくることです。

目指す姿を具体的に言えば、次のような流れが人の介在なしに成立することです。

  • 患者からの予約・電話応対をAIが受ける
  • 事前問診が構造化データとして到着し、カルテに接続される
  • 診察の会話がそのまま記録・オーダー・文書に変換される
  • 算定チェックとレセプト作成が自動で走り、返戻・査定の芽を事前に潰す
  • 会計・請求まで一連でつながる

これは「便利になる」という話ではなく、地方の医療を畳まずに済むかどうかという話です。医師1人と最小限のスタッフでも診療所が成立するなら、その地域の医療は維持されます。無人化はコスト削減の手段ではなく、地域医療の持続可能性そのものに直結しています。

クリニック側のAI活用の全体像は クリニックのDXは何から始めるべきか もあわせてご覧ください。

病院向け:目指すのは「余白」をつくること

一方、病院に同じ発想を持ち込むと的を外します。病院は無人化を目指す場所ではありません。

病院には医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、放射線技師、リハビリ職、医療事務、医療クラーク、事務部門と多様な職種が集まり、チームで医療を提供すること自体に価値があります。人員配置基準という制度上の縛りもあり、人を減らすこと自体が目的にはなり得ません。

では病院でAIネイティブ電子カルテが果たすべき役割は何か。患者に向き合う以外の仕事を削ることです。

現場の時間は、診療そのものではない業務にかなり食われています。記録の転記、部署間の申し送り、紹介状や診断書などの文書作成、退院サマリ、各種の届出・報告、会議資料の準備、システム間の二重入力。これらはどれも必要な業務ですが、その職種でなければできない仕事とは限りません

ここを削ることで得られるものが二つあります。

一つ目は、目の前の患者への集中です。 記録や事務に奪われていた注意を、患者本人に向けられるようになります。医療の質は、突き詰めれば患者にどれだけ向き合えたかに帰結します。

二つ目は、余白です。 これは効率化の議論から抜け落ちがちですが、本質的には重要です。空いた時間をさらに患者を詰め込むことに使えば、現場は何も変わりません。そうではなく、症例を掘り下げる、若手を育てる、業務の仕組みを設計し直す、臨床研究に取り組む、新しい診療のかたちを構想する——そうした創造的な仕事に振り向けられる時間をつくることに意味があります。

医師の働き方改革は時間外労働の上限規制という「上限を締める」アプローチで進んできましたが、仕事の総量が変わらないまま上限だけ締めれば現場は苦しくなります。仕事そのものを減らす手段がなければ成立しません。この論点は 医師の働き方改革とAI活用 でも扱っています。

二つの方向性を並べて整理する

観点クリニック向け病院向け
中心にある課題そもそも人が採れない職種ごとに仕事が過剰
目指す状態限りなく無人で運用できる患者に集中でき、余白がある
AIが担う範囲受付〜請求までの業務全般を代替職種ごとの周辺業務を削り、チームを支える
人を減らすことは目的に近い(維持のための手段)目的ではない(配置基準・チーム医療が前提)
成功の指標最小人数で診療が継続できるか患者と向き合う時間・創造的な時間が増えたか
社会的な意味地域医療の存続働き方の質の転換

同じ製品思想から出発しても、最適解はこれだけ違います。「クリニック向けを大きくすれば病院向けになる」わけでも、「病院向けを削ればクリニック向けになる」わけでもない、というのが重要な点です。

なぜ「日本人の働き方を変える」ことになるのか

ここまでの二つを合わせると、医療分野のAI活用は単なる業界内の効率化にとどまりません。

先に見たとおり、医療・福祉は就業者の約7人に1人を占め、2040年には5人に1人に近づきます。これだけの規模を持つセグメントの働き方が変われば、それは日本全体の働き方の話になります。

しかも医療は、労働集約的であることに加えて、人員配置基準や施設基準といった制度によって「何人置くか」が規定されている領域です。裏を返せば、制度と現場運用の両方が動けば、変化が個別の職場にとどまらず面として広がりやすい構造でもあります。

長時間労働を前提に成り立ってきた職場が、記録や事務から解放され、専門性の発揮と創造的な仕事に時間を使えるようになる。医療でそれが実現できるなら、同じ構造を抱える他産業への波及も見えてきます。医療現場のAI活用に取り組む意義は、この射程にあります。

共通する土台は「後付けではない」こと

クリニック向けと病院向けで目指す姿は違いますが、それを実現する前提条件は共通しています。AIが後付けでは、どちらの水準にも届かないという点です。

既存の電子カルテに音声入力ボタンや要約ボタンを足す発想では、入出力の改善にとどまります。「人がいなくても回る」も「周辺業務が消える」も、AIが業務フローの中に常時介在し、データ構造とUIがそれを前提に設計されていて初めて成立します。

  • クリニックでは、受付から請求までが一本のフローとしてつながっていなければ、どこかで必ず人の手当てが必要になる
  • 病院では、職種ごとに文脈の異なる業務を理解して初めて、削るべき仕事を削れる

この違いがどこから生まれるかは AIネイティブ電子カルテとはどんなものなのか? で詳しく整理しています。

まとめ

  • 「医療,福祉」の就業者は947万人・全就業者の約13.9%(2025年平均)。増加幅は全産業で最大
  • ただし「1割」という表現は定義依存。介護・福祉を含めれば約14%、医療分野に絞れば6%前後
  • 2040年には医療福祉分野で**1,070万人程度(18〜20%程度)**が必要となり、約96万人の不足が見込まれる
  • クリニック向けの目標は、限りなく無人で運用できること。地方医療を維持するための条件
  • 病院向けの目標は、患者に集中できる時間と、創造的な仕事に使える余白をつくること
  • この規模のセグメントの働き方が変わることは、日本全体の働き方を変えることに等しい

ポテックは、この二つの方向性それぞれに向き合ったAIネイティブ電子カルテの開発に取り組んでいます。ご相談やデモをご希望の場合は お問い合わせ からご連絡ください。


参考資料

  • 総務省統計局「労働力調査(基本集計)2025年(令和7年)平均結果の要約」
  • 厚生労働省「令和2年版厚生労働白書」/医療福祉分野の就業者数のシミュレーション
  • 厚生労働省「令和6年 衛生行政報告例(就業医療関係者)」
  • 厚生労働省「令和6(2024)年 医師・歯科医師・薬剤師統計」
  • 総務省統計局「令和2年国勢調査 抽出詳細集計」
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