「今月は忙しかった」「最近少し落ち着いている」——クリニックの経営判断が、こうした感覚で行われている場面は少なくありません。院長自身が診療の最前線に立っている以上、これは自然なことでもあります。
しかし、忙しさと儲かっているかは別です。そして打ち手を決めるには、どこに問題があるのかを特定する必要があります。本記事では、クリニックが押さえておくべき10の指標を4つの群に整理します。
免責:本記事は一般的な情報提供です。適正水準は診療科・立地・診療スタイルによって大きく異なります。数値の解釈は自院の推移を基準に行い、必要に応じて税理士・コンサルタント等の専門家にご相談ください。
レセプトデータとカルテデータを掛け合わせた分析については レセプトデータ×電子カルテデータで実現する経営分析 で扱っています。
前提:収益は「患者数 × 単価」に分解できる
まず全体像を押さえます。クリニックの収益構造は極めて単純です。
収益 = 患者数 × 平均単価
そして利益は、ここから固定費と変動費を引いたものです。したがって経営上の打ち手は、患者数を増やす/単価を上げる/コストを下げるの3方向しかありません。
以下の指標は、この3方向のどこに課題があるのかを特定するためのものです。
第1群:患者数を見る指標
① 1日平均外来患者数
もっとも基本的な指標です。月の総患者数を診療日数で割ります。
見るべきは絶対値ではなく推移です。前年同月比、前月比で追い、季節変動を織り込んだうえで傾向を判断します。診療科によって繁閑の波は大きく異なるため、他院との比較よりも自院の時系列が重要になります。
② 新患数・新患比率
新患数は集患力を、新患比率(新患数 ÷ 総患者数)は患者構成の健全性を示します。
新患が減っているのに総患者数が保たれている場合、既存患者に支えられている状態です。短期的には安定して見えますが、患者の高齢化や転居によって将来的に減少します。逆に新患比率が高すぎる場合は、一度来た患者が定着していない可能性があります。
③ 再診率(継続率)
初診で来た患者が、その後も継続して来院しているかを示します。
この指標は診療の質と患者満足度の代理指標として機能します。待ち時間が長い、説明が不十分、予約が取りにくい——こうした要因は再診率に表れます。新患を集める広告費より、既存患者に再来してもらう改善のほうが費用対効果が高いことは多く、まず見るべき指標です。
第2群:単価を見る指標
④ 平均診療単価(レセプト単価)
診療報酬の総額を患者数で割った値です。外来単価とも呼ばれます。
この指標が低い場合、考えられる要因は複数あります。
- 算定できるはずの項目を算定漏れしている
- 実施している指導や管理を算定に結びつけていない
- 診療内容自体が単価の低い構成になっている
このうち算定漏れは、システムで解決できる部分が大きい領域です。算定漏れはなぜ起こる?原因別チェックリストで収益ロスを防ぐ で詳しく扱っています。
⑤ 保険/自費の売上構成比
保険診療収益と自費収益の比率です。
保険診療は単価が国に定められ、改定のたびに変動します。自費メニューを持つことは、この外部要因への依存を下げる意味を持ちます。ただし比率そのものに正解はありません。診療科と診療方針によって適切な水準は変わります。
重要なのは、この比率を把握できているかどうかです。自費売上が電子カルテの外の別システムに貯まっていると、そもそも構成比が見えません。この構造的な問題は クリニックの会計機能にイノベーションが必要な理由 で扱っています。
第3群:効率を見る指標
⑥ 予約枠稼働率
用意した予約枠のうち、実際に埋まった割合です。
稼働率が低い時間帯が特定できれば、枠の再配分や告知の打ち手につながります。逆に常に100%に張り付いている場合、機会損失が発生している可能性があります——予約が取れずに他院へ流れている患者がいるかもしれません。
⑦ 予約キャンセル率・無断キャンセル率
キャンセルは、埋まっていたはずの枠が空になることを意味します。とくに無断キャンセルは、直前まで枠が塞がっているため代替患者を入れられません。
リマインド通知の導入で改善しやすい領域であり、打ち手と効果が直結する指標です。自費のコース契約がある場合は、キャンセルポリシーの設計とセットで考えます。
⑧ 患者滞在時間(待ち時間)
受付から会計終了までの時間です。
待ち時間は患者満足度に直結し、再診率に影響します。また滞在時間が長いということは、同じ時間により多くの患者を診られていないということでもあります。測っていないクリニックが多い指標ですが、受付・会計の時刻データがあれば算出可能です。
診療科別の混雑対策は 感染流行期の待合室混雑を解消する などでも扱っています。
第4群:収益性を見る指標
⑨ 人件費率
人件費 ÷ 売上高です。クリニックの費用構造において最大の項目であり、収益性を最も左右します。
この比率が上がっているとき、原因は2つに分かれます。人件費が増えたのか、売上が減ったのか。同じ数字の悪化でも、打ち手はまったく違います。分子と分母を分けて見る癖をつけることが重要です。
なお、比率を下げること自体が目的ではありません。人が採れない時代に、必要な人員を確保できることのほうが重要な局面もあります。業務量を減らして少ない人数で回せるようにするという方向の打ち手が、システム投資の本来の狙いです。
⑩ 損益分岐点患者数
固定費を賄うために必要な患者数です。おおまかには次で捉えられます。
損益分岐点患者数 ≒ 固定費 ÷(平均単価 − 患者1人あたり変動費)
この数字を把握していると、日々の患者数を見たときの意味が変わります。「今日は何人だった」ではなく、「損益分岐点を上回ったかどうか」で判断できるようになります。
開業初期や設備投資の直後には、とくに重要な指標です。
10指標の一覧
| 群 | 指標 | 何がわかるか | 主な打ち手 |
|---|---|---|---|
| 患者数 | ① 1日平均患者数 | 全体の規模と推移 | 集患、診療枠の調整 |
| 患者数 | ② 新患数・新患比率 | 集患力、患者構成の健全性 | 広報、Web、紹介 |
| 患者数 | ③ 再診率 | 診療の質、患者満足度 | 待ち時間、説明、予約の取りやすさ |
| 単価 | ④ 平均診療単価 | 算定の精度、診療構成 | 算定漏れ対策、指導管理の実施 |
| 単価 | ⑤ 保険/自費構成比 | 外部要因への依存度 | 自費メニューの設計 |
| 効率 | ⑥ 予約枠稼働率 | 枠の使われ方、機会損失 | 枠の再配分、告知 |
| 効率 | ⑦ キャンセル率 | 枠の空費 | リマインド、ポリシー設計 |
| 効率 | ⑧ 患者滞在時間 | 満足度、回転 | 受付・会計フローの改善 |
| 収益性 | ⑨ 人件費率 | 費用構造 | 業務量削減、システム投資 |
| 収益性 | ⑩ 損益分岐点患者数 | 安全圏の位置 | 固定費見直し、単価改善 |
指標を運用するときの3つの注意
単月で判断しない。 医療は季節変動が大きい領域です。単月の増減に反応すると、打ち手が振り回されます。前年同月比と移動平均で傾向を見ます。
指標を増やしすぎない。 見る指標が多いほど良いわけではありません。見て、判断して、動くというサイクルが回らない指標は、集計コストだけがかかります。まずは自院の課題に近い3つに絞り、月次で見る習慣をつくるほうが効果的です。
分解して見る。 総患者数が減ったとき、それが新患の減少なのか再診の減少なのかで打ち手は変わります。単価が下がったとき、算定漏れなのか診療構成の変化なのかで対処が変わります。指標は分解して初めて打ち手につながります。
データをどこから取るか
これらの指標の多くは、レセプトデータと電子カルテのデータから算出できます。ただし実際には、次の理由で集計が難しいことがあります。
- 予約・受付・カルテ・会計が別々のシステムに分かれている
- 自費売上が電子カルテの外にある
- 時刻データ(受付時刻、会計時刻)が記録されていない
- エクスポートして手作業でExcel集計している
指標を見る習慣がつかない最大の理由は、集計に手間がかかることです。 毎月数時間かけないと数字が出ない仕組みでは、続きません。逆に、日々の診療と会計がひとつの基盤に乗っていれば、これらの数値は運用の副産物として自動的に得られます。
ポテックが開発する「AIカルテ」は、予約から診療記録、会計、レセプト、経営分析までを一つの循環としてつなぐ設計としています。
まとめ
- クリニックの収益は患者数 × 単価に分解でき、打ち手は患者数・単価・コストの3方向しかない
- 患者数群では新患比率と再診率が構成の健全性を示す。再診率の改善は集患より費用対効果が高いことが多い
- 単価群では算定漏れがシステムで解決しやすい領域。保険/自費構成比は「把握できているか」がまず問題
- 効率群のキャンセル率は打ち手と効果が直結する。滞在時間は測っていないクリニックが多い
- 収益性では人件費率を分子と分母に分けて見る。比率を下げること自体が目的ではない
- 運用の注意は単月で判断しない・増やしすぎない・分解して見る
- 続かない最大の理由は集計の手間。日々の運用の副産物として数値が出る仕組みが前提になる
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