電子カルテ情報共有サービスは、医療DXの中でも最も分かりにくい施策の一つです。「3文書6情報が共有される」という説明は広く知られていますが、なぜこの仕組みが必要とされ、他の施策とどうつながっているのかまで整理されている機会は多くありません。本記事では、実務対応の手順ではなく、政策としての位置づけと設計思想を解説します。導入手順や加算要件については 電子カルテ情報共有サービス完全ガイド をご覧ください。
免責:本記事は一般的な情報提供です。運用開始時期・共有範囲・診療報酬上の取扱いは今後変わり得ます。実務では必ず最新の一次情報(厚生労働省の公式資料等)をご確認ください。
医療DX全体の見取り図は 医療DXとは?国の工程表と3本柱をクリニック目線で解説 で整理しています。
全国医療情報プラットフォームという構想
医療DXの3本柱の①は「全国医療情報プラットフォームの構築」です。これは単一の巨大システムを指すのではなく、目的ごとに用意された複数の情報共有の仕組みの総称です。
| 共有される情報 | 仕組み |
|---|---|
| 資格情報(保険資格) | オンライン資格確認 |
| 薬剤情報(処方・調剤) | 電子処方箋 |
| 診療情報(傷病名・検査等) | 電子カルテ情報共有サービス |
| 自治体が持つ情報(予防接種・健診等) | PMH |
| 介護情報 | 介護情報基盤 |
この並びを見ると、電子カルテ情報共有サービスが担う位置がはっきりします。資格情報と薬剤情報は先行して仕組みが整いましたが、カルテの中身にあたる診療情報だけが空白でした。ここを埋めるのが電子カルテ情報共有サービスです。
なぜ「3文書6情報」に絞られたのか
電子カルテには膨大な情報が蓄積されています。にもかかわらず共有対象が3文書6情報に絞られているのは、技術的な制約というより設計上の判断です。
- 標準化できる情報から始める:自由記載のカルテ本文は施設ごとに書き方が異なり、そのままでは共有しても活用しにくい。傷病名・アレルギー・薬剤禁忌・感染症・検査・処方といった構造化しやすい情報から着手する
- 臨床上の価値が高い情報を優先する:初診の患者、救急搬送、災害時など「相手の情報が分からない」場面で、真っ先に知りたい情報を選んでいる
- 医療機関側の負担を抑える:共有範囲を広げるほど、入力・確認の負担が増える
つまり3文書6情報は最終形ではなく出発点です。標準化の進展にあわせて、共有範囲は段階的に広がっていくことが想定されています。
HL7 FHIRを採用した意味
共有にあたって採用されている標準規格がHL7 FHIRです。ここには、過去の反省が反映されています。
従来も地域医療連携ネットワークは各地に構築されてきましたが、地域ごとに規格や運用が異なり、地域をまたぐと連携できないという課題がありました。全国どこでも同じ規格でつながることを最初から設計に組み込んだ点が、今回の仕組みの本質的な違いです。
FHIRは国際標準であり、将来的な他システムとの連携や、医療情報の二次利用(研究・政策立案への活用)も見据えた選択といえます。
モデル事業から本格運用へ
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2023年 | 設計・開発の開始 |
| 2024年 | 医療機関等での運用テスト |
| 2025年1月 | 全国9地域でモデル事業を開始 |
| 2025〜2026年度 | モデル事業での検証と改修を経て、本格運用へ |
当初は2025年度中の本格稼働が見込まれていましたが、モデル事業での検証結果を踏まえた改修が行われ、本格運用の時期は当初想定から後ろ倒しされています。大規模な情報共有基盤では、実地検証を経てスケジュールが調整されることは珍しくありません。導入計画を立てる際は、公表されている最新のスケジュールを確認することが重要です。
他の施策との関係
電子処方箋との関係
電子処方箋が扱うのは処方・調剤の情報です。電子カルテ情報共有サービスの6情報にも「処方」が含まれますが、リアルタイム性と目的が異なります。電子処方箋は調剤の現場で重複投薬・併用禁忌をその場でチェックするための仕組みであり、電子カルテ情報共有サービスは診療の文脈で患者の背景を把握するための仕組みです。両者は競合ではなく補完関係にあります。
標準型電子カルテとの関係
情報を共有するには、そもそも医療機関側にデータが電子的に存在し、標準規格に対応している必要があります。標準型電子カルテは、この前提条件を満たす医療機関を増やすための施策です。電子カルテ情報共有サービスが「配管」だとすれば、標準型電子カルテは「蛇口を増やす」取り組みにあたります。
診療報酬との関係
医療DX推進体制整備加算をはじめとする加算では、電子カルテ情報共有サービスへの対応が施設基準に組み込まれています。政策的な誘導は、補助金と診療報酬の両面から行われています。
クリニックが今考えるべきこと
1. ベンダーの対応方針を確認する
自院の電子カルテが電子カルテ情報共有サービスに対応するのか、対応する場合の時期と費用はどうなるのかを、ベンダーに確認しておきましょう。標準規格への対応は、今後のシステム選定における基本的な判断軸になります。
2. 入力の質が問われるようになる
共有される情報は、自院の電子カルテに入力された内容がそのまま元になります。傷病名の付け方、アレルギー・禁忌の登録状況といった院内のデータ入力の質が、他院から見えるようになるという変化があります。共有開始前に、マスタの整備や入力ルールの見直しをしておく価値があります。
3. 患者同意の運用を設計する
診療情報は要配慮個人情報にあたり、共有には患者の同意が前提となります。受付での説明手順や同意の取得方法を、事前に運用として設計しておく必要があります。
AIカルテでの対応
AIネイティブ電子カルテ「AIカルテ」は、標準規格への対応を前提とした設計としており、医療DX関連の情報共有の仕組みに対応していく方針です。あわせて、音声入力によるカルテ生成の段階で傷病名や処方が構造化されるため、共有対象となるデータの品質を保ちやすい点も特徴です。加算の要件充足を含め、導入時に個別にご相談いただけます。
おわりに
電子カルテ情報共有サービスは、全国医療情報プラットフォームのなかで「診療情報」という最後の空白を埋める施策です。3文書6情報という限定的な範囲から始まっていますが、これは出発点であり、標準化の進展にあわせて広がっていきます。クリニックとしては、ベンダーの対応方針の確認、院内のデータ入力の質の見直し、患者同意の運用設計という3点を、本格運用の前に整えておくことが実務的な備えになります。
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