AIの導入を検討したり、業者の説明を聞いたりすると、聞き慣れない言葉が次々に出てきます。「LLMが」「プロンプトを工夫すれば」「トークン数が」——意味がわからないまま話が進むと、何を判断すればいいのかもわかりません。
本記事では、クリニックの職員が知っておけば十分な用語だけに絞って解説します。技術的な正確さよりも、「業務で判断するときに役立つか」を優先しています。
免責:本記事は一般的な情報提供です。技術やサービスの内容は変わり得ます。医療機関での生成AI利用にあたっては 医療機関で生成AIを使うときの注意点 もあわせてご確認ください。
① 生成AI
文章・画像・音声などを「作り出す」AIの総称です。
従来のAIは「分類する」「予測する」ものが主流でした。レントゲン画像を見て異常の有無を判定する、来月の患者数を予測する、といったものです。これに対して生成AIは、新しい文章や画像そのものを作ります。
クリニックの業務で言えば、次のようなことができます。
- 診察の会話から、カルテの下書きを作る
- カルテの内容から、紹介状の文面を作る
- 患者向けの説明資料を作る
「判定する」のではなく「作る」。ここが従来のAIとの違いです。
② LLM(大規模言語モデル)
Large Language Model の略で、生成AIの中でも言葉を扱うものを指します。ChatGPT、Claude、Geminiといったサービスは、いずれもこのLLMを使っています。
仕組みを一言でいうと、膨大な量の文章を学習して、「次に来る言葉として自然なもの」を計算し続けているものです。
この理解が実務上なぜ大事かというと、LLMは「正しいこと」を答えているのではなく「自然な文章」を作っているという性質が、後述するハルシネーションの原因になるからです。もっともらしい文章が作れてしまうために、間違いが間違いに見えないことがあります。
③ プロンプト
AIへの指示文のことです。「〜してください」と入力するあの文章がプロンプトです。
同じAIでも、プロンプトの書き方で結果は大きく変わります。実務で効くコツは次の3つです。
役割を与える。 「あなたは医療事務の担当者です」と最初に伝えると、その立場に沿った答えが返りやすくなります。
条件を具体的に書く。 「わかりやすく」ではなく「中学生でもわかる言葉で、400字程度で」のように、判断できる形で指定します。
出力の形を指定する。 「箇条書きで5つ」「表にして」など、欲しい形を先に伝えます。
なお、プロンプトに患者を特定できる情報を入れてはいけません。氏名、生年月日、住所、電話番号、カルテ番号などは、匿名化してから渡すのが原則です。この点は院内ルールとして明文化しておくべき部分です。
④ トークン
AIが文章を処理するときの単位です。おおまかには「単語や文字のかたまり」と考えてください。日本語では、1文字が1トークンより多くなることも少なくなることもあり、単純な文字数とは一致しません。
トークンを知っておくべき理由は2つあります。
料金の単位になる。 多くのAIサービスは、処理したトークン数に応じて課金されます。長い文章を投げれば、それだけコストがかかります。
一度に扱える量の上限がある。 これが次のコンテキストです。
⑤ コンテキスト(コンテキストウィンドウ)
AIが一度に読み込んで考慮できる情報の範囲です。「文脈」と訳されます。
人間でいえば「同時に机の上に広げておける資料の量」に近いイメージです。この範囲を超えた情報は、AIは見ていません。
近年のAIはこの範囲が大きく広がり、長い文書やカルテの経過をまとめて読ませることが現実的になってきました。ただし上限は必ず存在するため、次の点は実務で意識しておく必要があります。
- 長い会話を続けると、最初のほうのやりとりが範囲から外れることがある
- 「10年分のカルテを全部読ませて」といった使い方は、単純にはできない場合がある
- 範囲に入っていない情報についてAIが答えたときは、推測で書いている可能性がある
⑥ ハルシネーション
AIが、事実でないことをもっともらしく書いてしまう現象です。日本語では「幻覚」と訳されます。
これはAIの故障ではなく、仕組み上避けられない性質です。②で触れたとおり、LLMは「自然な文章」を作るものであって、「正しい事実」を検索しているわけではないためです。
医療現場で特に注意すべきなのは、間違いが自信ありげに書かれるという点です。「たぶん違うかもしれませんが」とは書いてくれません。
対策の基本は次の3つです。
- 根拠のある情報を一緒に渡す。 カルテの内容を渡したうえで要約させれば、無から作る余地が減ります
- 人が確認する前提で使う。 下書きとして扱い、確定は人が行います
- 確認しやすい使い方を選ぶ。 読めば違和感でわかる作業(文書の下書き)は安全ですが、大量データから何かを見つけさせる作業は間違いに気づきにくくなります
線引きの考え方は AIに任せてよい業務・任せてはいけない業務の線引き で詳しく扱っています。
⑦ 学習(と、入力したデータの扱い)
ここは院内ルールに直結する重要な用語です。
「学習」には2つの意味があります。
- 事前学習:AIが作られるときに、大量の文章を読み込んで能力を獲得すること
- 入力データの学習利用:あなたが入力した内容を、そのAIの改善のために使うこと
問題になるのは2つ目です。サービスによって、入力した内容が学習に使われるかどうかが異なります。無料の一般向けサービスでは学習に使われる設定が既定になっていることがあり、法人向けや医療機関向けのプランでは使われない契約になっていることが一般的です。
医療機関で使う場合、「入力した内容が学習に使われないこと」が契約上どうなっているかは、必ず確認すべき項目です。
⑧ API
システム同士をつなぐための窓口です。AIを自院のシステムから直接呼び出したい場合に関わってきます。
詳しくは APIとは?クリニックのシステム連携を理解するための基礎知識 で解説しています。
⑨ MCP
AIを、外部のデータやツールにつなぐための共通の決まりごとです。比較的新しい用語で、AIが「調べる」「操作する」といった動きをするための土台になります。
詳しくは MCPとは?AIが外部のデータやツールとつながる仕組み で解説しています。
⑩ AIエージェント
目的を伝えると、手順を自分で組み立てて複数の作業を実行するAIです。
「この患者の紹介状を作って」と指示すると、カルテを検索し、必要な情報を集め、文書の形に整え、下書きを出す——という一連を、手順を教えていなくても進めようとします。
従来の自動化との違いと、医療事務業務への適用可能性は AIエージェントは医療事務をどこまで代替できるか で扱っています。
用語の早見表
| 用語 | ひとことで言うと | 実務で効いてくる場面 |
|---|---|---|
| 生成AI | 文章や画像を「作る」AI | 記録・文書の下書き |
| LLM | 言葉を扱う生成AI | ChatGPT等の中身 |
| プロンプト | AIへの指示文 | 書き方で結果が変わる |
| トークン | 処理の単位 | 料金と上限の計算 |
| コンテキスト | 一度に読める範囲 | 長い資料を扱えるか |
| ハルシネーション | もっともらしい嘘 | 確認の必要性 |
| 学習 | 入力が再利用されるか | 契約時の確認事項 |
| API | システム同士の窓口 | 電子カルテとの連携 |
| MCP | AIと外部をつなぐ規格 | AIが「調べる」土台 |
| AIエージェント | 手順を自分で組み立てるAI | 業務の自動化 |
この10語がわかると、何が判断できるようになるか
用語を覚えること自体が目的ではありません。業者の説明を聞いたときに、確認すべき点が見えるようになることが目的です。
- 「AIが自動で作ります」→ ハルシネーションの可能性は?誰が確認する?
- 「大量の資料を読み込めます」→ コンテキストの上限は?超えたらどうなる?
- 「安全です」→ 入力内容は学習に使われない契約になっている?
- 「既存システムと連携できます」→ APIはあるか?どこまで連携できる?
- 「AIが自動で調べます」→ 何のデータに、どうつながっている?
言葉の意味がわかっていれば、こうした質問が自然に出てきます。それが、AI導入で失敗しないための一番の備えになります。
まとめ
- 生成AIは「判定する」のではなく「作る」AI。LLMはそのうち言葉を扱うもの
- LLMは「正しいこと」ではなく「自然な文章」を作っている。ここがハルシネーションの原因
- プロンプトは指示文。役割・条件・出力の形を具体的に書くと精度が上がる。患者を特定できる情報は入れない
- トークンは処理の単位で料金の基準。コンテキストは一度に読める範囲で、上限は必ずある
- 「学習」に入力内容が使われるかは契約上の確認事項。医療機関では必須のチェックポイント
- 用語がわかると、業者への確認すべき質問が自然に出てくる
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