システムの説明でほぼ必ず出てくるのが「API」という言葉です。「APIで連携できます」と言われても、何ができて何ができないのかは伝わってきません。
本記事では、APIとは何かを技術用語をできるだけ使わずに説明し、クリニックの業務でどこに関わってくるのかを整理します。
免責:本記事は一般的な情報提供です。個別の製品でどこまで連携できるかは製品ごとに異なります。導入検討時は各ベンダーにご確認ください。
APIとは何か——レストランの注文にたとえる
API(Application Programming Interface) は、システム同士がやりとりするための窓口です。
レストランで考えるとわかりやすくなります。
- あなた(お客)は、厨房に直接入って料理を作らない
- ウェイターにメニューから注文を伝える
- ウェイターが厨房に伝え、料理を運んでくる
このときのウェイターがAPIです。厨房(システムの中身)がどうなっているかを知らなくても、決められた頼み方(メニュー)に従えば、欲しいもの(データや処理)が手に入ります。
ここから重要な性質が3つ導けます。
① メニューにないものは頼めない。 APIで「できること」はあらかじめ決められています。「そのシステムにデータが入っている」ことと「APIで取り出せる」ことは別です。
② 頼み方が決まっている。 決められた形式で頼まないと通じません。だから連携には設定作業が必要になります。
③ 厨房の中は見えない。 システムの内部構造を知らなくても連携できる、というのがAPIの利点です。
クリニックですでに動いているAPI
意識していないだけで、APIはすでに日常業務のなかで動いています。
| 場面 | 何と何がつながっているか |
|---|---|
| オンライン資格確認 | 院内のシステム ↔ 支払基金・国保中央会のネットワーク |
| Web予約 | 予約システム ↔ 電子カルテ |
| 検査結果の取り込み | 外部検査会社 ↔ 電子カルテ |
| 検査機器からの数値取得 | 検査機器 ↔ 電子カルテ |
| キャッシュレス決済 | 決済端末 ↔ 会計システム |
| 電子処方箋 | 電子カルテ ↔ 電子処方箋管理サービス |
「保険証をカードリーダーにかざすと資格情報が出てくる」——あれもAPIを通じたやりとりです。
APIがあると何が変わるのか
手入力がなくなる。 検査結果を紙で受け取って手で入力する運用が、自動で取り込まれる運用に変わります。転記ミスもなくなります。
二重管理がなくなる。 予約システムとカルテが別々だと、患者情報を両方に登録することになります。つながっていれば1回で済みます。
あとから機能を足せる。 APIが公開されていれば、必要になったときに別のサービスをつなげられます。最初にすべてを揃える必要がなくなります。
データを取り出せる。 経営分析のために自院のデータを別のツールで扱う、といったことが可能になります。乗り換え時のデータ移行にも関わってきます。
この最後の点は将来の選択肢に直結します。詳しくは 電子カルテのベンダーロックインをどう避けるか で扱っています。
「連携できます」の中身は3段階ある
ここが最も誤解が生じやすい部分です。同じ「連携できます」でも、実態は大きく異なります。
| 段階 | 実態 | 現場での体感 |
|---|---|---|
| 画面を並べるだけ | 2つのシステムを別々に開いて、人が見比べる | 連携とは言いにくい。二重入力は残る |
| データを渡す(一方向) | 片方のデータがもう片方に流れ込む | 転記はなくなる。ただし戻せない |
| 相互にやりとりする(双方向) | 予約が入ればカルテに反映され、カルテで変更すれば予約側にも反映される | 本当の意味で一元管理になる |
「連携できます」と言われたら、この3段階のどれなのかを確認することが重要です。とくに一方向なのか双方向なのかで、日々の運用負荷はまったく違います。
「連携できます」と言われたときの5つの質問
商談の場で使える確認事項です。
① どの情報が、どちらの方向に流れますか? 患者基本情報だけなのか、予約・会計・検査結果まで含むのか。一方向か双方向か。
② リアルタイムですか、それとも定期的な取り込みですか? 「1日1回夜間にまとめて」という連携もあります。診察中に必要な情報なら、それでは間に合いません。
③ 連携の費用はいくらですか? API連携は無料とは限りません。初期の接続費用、月額、そして相手方のシステムにも費用が発生することがあります。
④ 相手側のシステムが変わったらどうなりますか? 一方がバージョンアップすると連携が止まることがあります。誰が対応し、費用は誰が持つのかを決めておきます。
⑤ 標準的な方式ですか、独自の方式ですか? ここが将来を左右します。次で説明します。
標準規格という考え方
APIには、**業界共通で決められた方式(標準規格)**と、そのベンダー独自の方式があります。
医療分野では、HL7 FHIR(エイチエルセブン・ファイア)という国際的な標準規格の採用が進んでいます。国が進める電子カルテ情報共有サービスなどでも採用されており、日本国内でも重要度が増しています。国内では以前からSS-MIX2という仕組みも使われています。
標準規格に対応していることの意味は、将来つなぎ直すときのコストが下がるという一点に尽きます。
- 独自方式:そのベンダー専用の作り込みが必要。乗り換え時は全部作り直し
- 標準方式:同じ規格に対応した別の製品とつなぎ替えやすい
導入時点では違いが見えませんが、5年後に効いてきます。
標準化の全体像は 電子カルテの標準要件に沿ったデータ移行の方法、国の施策としての位置づけは 標準型電子カルテとは?2030年目標と民間製品との使い分け で扱っています。
AIとAPIの関係
近年は、AIサービスもAPIで提供されるのが一般的です。
たとえば「音声を文字にする」「文章を要約する」といったAIの機能は、その会社のサーバー上で動いており、APIを通じて自院のシステムから呼び出すという形になります。
このとき、実務上重要な確認事項があります。
送信される情報の範囲。 どのデータが外部に送られるのかを把握しておく必要があります。
送信先と契約。 そのAIサービスの提供元はどこで、入力内容が学習に使われない契約になっているか。
通信の安全性。 暗号化されているか、3省2ガイドラインへの適合はどうか。
医療機関での生成AI利用の法的整理は 医療機関で生成AIを使うときの注意点、セキュリティの前提は 3省2ガイドラインをわかりやすく解説 をご覧ください。
なお、AIが外部のデータやツールにつながるための新しい共通規格として MCP があります。詳しくは MCPとは?AIが外部のデータやツールとつながる仕組み で解説しています。
よくある誤解
「APIがあれば何でもつながる」 → つながりません。①のとおり、APIで提供されている機能の範囲でしかやりとりできません。
「連携は無料」 → 有料のことが多く、両方のベンダーに費用が発生する場合もあります。
「つなげば自動で全部同期する」 → 何をどの方向に同期するかは設定次第です。
「APIがあれば乗り換えは簡単」 → データを取り出せることと、次のシステムに入れられることは別問題です。移行の実務は 電子カルテのデータ移行・乗り換え完全ガイド で扱っています。
まとめ
- API はシステム同士の窓口。レストランのウェイターにあたる
- メニューにないものは頼めない——データがあることと取り出せることは別
- クリニックではオンライン資格確認・Web予約・検査結果取込・決済などですでに動いている
- 「連携できます」には画面を並べるだけ/一方向/双方向の3段階がある。必ずどれか確認する
- 確認すべきは流れる情報・方向・タイミング・費用・相手側の変更時・標準か独自かの6点
- HL7 FHIR などの標準規格に対応していると、将来つなぎ直すコストが下がる
- AIサービスもAPI経由。送信される情報・契約・通信の安全性の確認が必要
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