オンライン診療は「システムを契約すれば始められる」ものではありません。国の指針に沿った実施体制を整え、施設基準を届け出て、料金と運用フローを設計する——この順序を踏む必要があります。
本記事では、開始までに決めるべきことと届け出るべきことを、順を追って整理します。
免責:本記事は一般的な情報提供です。施設基準・算定要件・点数は改定により変わります。とくに令和8年度(2026年度)改定では医療DX関連加算が大きく再編されています。実務では必ず最新の一次情報(厚生労働省・地方厚生(支)局の告示・通知)をご確認ください。
ステップ1:指針を理解する
出発点は、厚生労働省の**「オンライン診療の適切な実施に関する指針」**です。オンライン診療で何をしてよいか、どういう体制が必要かは、この指針が基礎になります。
押さえておくべき考え方は次のとおりです。
- 対面診療との組み合わせが前提:オンラインのみで完結する診療形態ではなく、必要時に対面へ移行できる体制が求められます
- 診療計画の作成:継続的な診療を行う場合、あらかじめ診療計画を作成します
- 医師の本人確認・患者の本人確認:双方の確認方法を定めます
- 急変時の対応:オンライン診療中に急変が起きた場合の対応方針を決めておきます
- 薬剤処方の制限:オンライン診療で処方する薬剤には注意が必要な区分があります
とくに向精神薬の取り扱いには注意が必要です。情報通信機器を用いた初診において向精神薬の処方を行わない旨を掲示することが、施設基準の要件として求められています。
ステップ2:施設基準を確認し、届け出る
情報通信機器を用いた診療を算定するには、施設基準を満たしたうえで地方厚生(支)局長等へ届出が必要です。
届出にあたって整えるべき主な事項は次のとおりです。
- オンライン診療の実施体制(実施する医師、実施可能な時間帯)
- 対面診療への移行体制と、連携する医療機関
- 指針に沿った研修の受講
- 院内およびWebサイトでの掲示(実施内容、向精神薬の処方に関する事項など)
- 緊急時の対応方針
掲示の要件は見落とされやすい部分です。院内掲示だけでなく、自院のWebサイトへの掲載が求められる項目もあります。届出前にチェックリスト化しておくことをおすすめします。
ステップ3:2026年度改定での変更点を押さえる
令和8年度(2026年度)改定では、医療DX関連の加算体系が大きく再編されました。オンライン診療を始めるタイミングでは、ここを併せて確認しておく必要があります。
電子的診療情報連携体制整備加算の新設
従来の医療情報取得加算と医療DX推進体制整備加算が廃止され、電子的診療情報連携体制整備加算に統合・再編されました。令和8年5月31日をもって旧加算が廃止され、令和8年6月1日から新加算の算定が開始されています。
報道されている内容によれば、施設基準は電子処方箋や電子カルテ情報共有サービスへの対応状況に応じて区分され、全区分に共通する要件としてレセプトオンライン請求、明細書の無料発行体制、オンライン資格確認、マイナ保険証利用率に関する基準などが挙げられています。
重要なのは、旧加算を届け出ていた医療機関でも、改めて届出が必要という点です。自動的に移行されるものではありません。点数・要件の詳細は必ず告示・通知でご確認ください。
D to P with N の評価
患者のそばに看護師等が付き添い、医師が離れた場所からオンラインで診療する形態(D to P with N)が評価されています。とくに在宅医療や、通院が困難な患者への対応で選択肢が広がります。
在宅医療との組み合わせは 訪問看護・薬局・ケアマネと繋がる|在宅医療の多職種連携システム もあわせてご覧ください。
ステップ4:システムを選ぶ
オンライン診療システムの選定では、次の観点を確認します。
電子カルテとの連携。 これが最も重要です。オンライン診療システムが独立していると、次のような二重作業が発生します。
- 予約をオンライン診療システムと院内予約の両方で管理する
- 診療内容をオンライン診療システムで確認しながらカルテに手入力する
- 会計・決済がカルテ側の会計と分離する
予約から診療、記録、会計までが一つの流れになるかが、運用負荷を大きく左右します。
決済手段。 オンライン診療では窓口での現金精算ができません。クレジットカード等による決済手段が必要になります。決済の考え方は クリニックのキャッシュレス決済導入ガイド で扱っています。
処方箋の扱い。 処方箋の送付方法、薬局との連携、電子処方箋への対応を確認します。電子処方箋とは?クリニック導入のメリット・費用・進め方 で詳しく扱っています。
患者側の使いやすさ。 アプリのインストールが必要か、ブラウザで完結するか。高齢患者が多い診療科では、患者側の導入ハードルが利用率を決めます。
セキュリティ。 医療情報を扱う以上、3省2ガイドラインへの適合が前提になります。3省2ガイドラインをわかりやすく解説 をご覧ください。
ステップ5:料金と運用を設計する
患者が負担する費用の構成
オンライン診療で患者が支払う費用は、複数の要素から構成されます。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 保険診療分 | 情報通信機器を用いた診療に係る診療報酬(自己負担分) |
| システム利用料等 | 医療機関が定める実費相当(設定する場合) |
| 薬剤の配送料 | 薬局が設定する場合が多い |
システム利用料等を患者に求める場合は、金額と根拠を明示し、事前に説明することが必要です。院内掲示とWebサイトでの明示を整えておきます。
予約枠の設計
オンライン診療を対面診療と同じ枠で扱うか、専用枠を設けるかは運用の分かれ目です。
- 専用枠:時間が読みやすく、通信トラブル時の調整もしやすい。ただし枠が埋まらないと稼働率が下がる
- 混在:柔軟だが、対面患者を待たせるリスクがある
始める段階では専用枠から入り、実績を見て調整するのが安全です。
通信トラブル時の対応
接続できない、途中で切断されたといった事態は必ず起こります。あらかじめ次を決めておきます。
- 何分待って接続できなければ電話に切り替えるか
- 途中で切断された場合、診療として成立させるか、再度実施するか
- その場合の費用の扱い
開始までのチェックリスト
| 段階 | 確認事項 |
|---|---|
| 指針 | 診療計画、本人確認、急変時対応、処方制限の方針を定めた |
| 研修 | 指針に沿った研修を受講した |
| 掲示 | 院内掲示とWebサイトの記載を整えた(向精神薬に関する事項を含む) |
| 届出 | 施設基準を確認し、地方厚生(支)局へ届け出た |
| 改定対応 | 電子的診療情報連携体制整備加算の届出を改めて行った |
| システム | 電子カルテとの連携、決済、処方箋の流れを確認した |
| 料金 | 保険外の費用の金額と根拠を明示した |
| 運用 | 予約枠の設計と、通信トラブル時の手順を決めた |
よくあるつまずき
届出をせずに始めてしまう。 システムを契約すれば診療はできますが、算定要件を満たしていなければ請求できません。届出が先です。
掲示要件の漏れ。 院内掲示は行ったがWebサイトへの掲載を忘れる、というケースが起こります。
旧加算からの自動移行を前提にしてしまう。 2026年度改定では旧加算が廃止されており、改めて届出をしなければ算定できません。
患者側の導入ハードルを軽視する。 システムを整えても、患者が使えなければ利用は伸びません。初回の接続を院内でサポートする、案内資料を配布するといった運用面の手当てが要ります。
対面診療との役割分担が曖昧。 どういう患者・どういう場面でオンラインを使うのかを決めておかないと、現場で判断が揺れます。
まとめ
- 出発点は**「オンライン診療の適切な実施に関する指針」**。診療計画、本人確認、急変時対応、処方制限を定める
- 算定には施設基準の届出が必要。掲示要件(院内・Webサイト)は見落とされやすい
- 令和8年度改定で医療情報取得加算と医療DX推進体制整備加算が廃止され、電子的診療情報連携体制整備加算へ再編(令和8年6月1日算定開始)。旧加算の届出済みでも改めて届出が必要
- D to P with N の評価により、在宅・通院困難な患者への選択肢が広がった
- システム選定では電子カルテとの連携が最重要。分離すると予約・記録・会計で二重作業が発生する
- 料金は保険診療分と保険外の費用を分け、金額と根拠を明示する
- 予約枠は専用枠から始め、通信トラブル時の手順を事前に決めておく
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