「AIを何かに使いたいが、何から手をつければいいかわからない」という相談が増えています。ツールの数が急速に増え、名前を聞いたことはあっても自院のどの業務に効くのかが見えにくくなっているためです。
本記事では、クリニックで実際に使われているAIツールを5つの用途に分け、代表的な12ツールを整理します。個々のツールの機能を並べるのではなく、「どの業務の、どの負担を減らすのか」という観点で選べるようにすることが目的です。用途ごとの詳しい使い方は、それぞれの専門記事にまとめています。
免責:本記事は一般的な情報提供です。各ツールの仕様・料金・対応状況は変わり得ます。導入検討時は各社の最新情報および所管ガイドラインの最新版をご確認ください。
AIツールを選ぶ前に——「用途」で分けると迷わない
AIツールが選びにくい最大の理由は、同じ「AI」という言葉で、性質の違うものが並んでいることです。
医師の診察記録を助けるツールと、ホームページの文章を書くツールと、電話に自動で応答するツールは、扱う情報も、リスクも、導入の手間もまったく違います。これらを横一列に比較しても、答えは出ません。
そこで本記事では、次の5つの用途に分けます。
| 用途 | 減らしたい負担 | 扱う情報の性質 |
|---|---|---|
| ① 診療・文書 | 医師のカルテ入力、紹介状・診断書の作成 | 患者情報そのもの(最も慎重) |
| ② 事務・バックオフィス | 院内文書、議事録、集計、メール | 院内情報が中心。患者情報は含めない運用 |
| ③ 受付・患者対応 | 電話、問い合わせ、問診、多言語対応 | 患者の連絡先・症状(慎重) |
| ④ 集患・情報発信 | ホームページ、口コミ返信、SNS、チラシ | 公開情報が中心(比較的安全) |
| ⑤ 電子カルテ一体型 | 記録から請求までの全体 | 患者情報そのもの(最も慎重) |
扱う情報の性質が右の列です。この列が「慎重」であるほど、ツール選定では契約内容とガイドライン準拠が最優先になります。逆に④のように公開情報が中心の用途は、汎用ツールで気軽に始められます。
クリニック向けおすすめAIツール12選
用途ごとに代表例を挙げます。ここでの「おすすめ」は、特定の製品が最良という意味ではなく、その用途の代表格として検討の起点にしやすいという意味です。
① 診療・文書(3ツール)
| ツール | 何に使うか | 確認すべき点 |
|---|---|---|
| AmiVoice(医療向け音声認識) | 診察中の発話をテキスト化し、カルテ入力の下書きに | 専門用語の認識、電子カルテとの連携方式 |
| ChatGPT / Claude(法人契約) | 紹介状・説明資料の文章整形、要約 | 入力データの学習利用の有無、契約プラン |
| AI電子カルテの内蔵AI | 音声からのSOAP生成、算定チェック | 3省2ガイドライン準拠、AIの搭載範囲 |
医師の入力負担は、クリニックのAI活用で最も効果が大きく、最も慎重さが求められる領域です。汎用の生成AIに患者情報を入力する運用は避け、医療用に設計されたツールか、契約で学習利用が明確に除外されたプランを使うのが前提です。詳しくは 医師の診療・文書作成を支えるAIツール と 電子カルテの音声入力ツール比較 をご覧ください。
② 事務・バックオフィス(3ツール)
| ツール | 何に使うか | 確認すべき点 |
|---|---|---|
| Microsoft 365 Copilot | Word・Excel・Outlook上での文書作成、集計、メール下書き | 既存の Microsoft 365 契約との関係 |
| Google Workspace の Gemini | ドキュメント・スプレッドシート・Gmail での同様の作業 | 既存の Google Workspace 契約との関係 |
| Notta / Zoom AI Companion | 院内ミーティングの文字起こしと議事録要約 | 録音の同意、保存場所 |
事務作業は患者情報を含めなくても十分に効果が出る領域です。院内マニュアルのたたき台、掲示物、スタッフ向け連絡、月次の集計など、まずここから始めると安全に習熟できます。具体的な手順は クリニックの事務作業を効率化するAIツール で扱っています。
③ 受付・患者対応(3ツール)
| ツール | 何に使うか | 確認すべき点 |
|---|---|---|
| AI電話自動応答サービス | 診療時間・アクセスなどの定型問い合わせへの自動応答、用件の振り分け | 転送ルール、通話内容の保存 |
| Ubie(ユビーAI問診)などのAI問診 | 来院前・待合での症状聞き取りと要約 | 電子カルテへの取り込み方式 |
| ポケトーク / DeepL | 外国人患者との受付・説明の多言語対応 | 医療用語の精度、診察での使用範囲 |
受付は電話対応が業務を分断する代表的な場所です。AI電話は「診療時間は何時までですか」といった定型の問い合わせを引き受けることで、受付が目の前の患者に集中できる時間を増やします。導入順序と注意点は クリニックの受付・患者対応に使えるAIツール と クリニックの電話・予約対応をAIで自動化する方法と注意点 をご覧ください。
④ 集患・情報発信(2ツール)
| ツール | 何に使うか | 確認すべき点 |
|---|---|---|
| ChatGPT / Gemini(汎用) | ホームページの文章案、口コミ返信の下書き、お知らせ文 | 医療広告ガイドラインへの適合を人が確認 |
| Canva | 院内掲示・チラシ・SNS画像の作成(AI機能を含む) | 画像の商用利用条件 |
公開情報を扱うため、最も気軽に始められる用途です。ただし医療広告には規制があり、AIが書いた文章をそのまま公開すると、誇大表現や比較優良表現が紛れ込むことがあります。AIは下書き、公開判断は人、という線引きが不可欠です。詳しくは クリニックの集患・情報発信に使えるAIツール をご覧ください。
⑤ 電子カルテ一体型(1ツール)
| ツール | 何に使うか | 確認すべき点 |
|---|---|---|
| AIネイティブ電子カルテ | 音声からの記録、算定チェック、文書生成、経営分析を一つの基盤で | レセコンとの関係、AIが標準搭載か、ガイドライン準拠 |
個別ツールを組み合わせる方式と異なり、記録・算定・文書・分析が最初からつながっているのが特徴です。個別ツールで始めて効果を実感した後、「ツール間の転記が面倒になった」段階で検討対象になることが多い選択肢です。仕組みは AI電子カルテとは?、比較の観点は 【2026年版】クリニック向けAI電子カルテ比較 で解説しています。
汎用AIと医療特化AIの使い分け
12ツールを見渡すと、大きく2種類に分かれることがわかります。
| 種類 | 例 | 得意なこと | 患者情報の扱い |
|---|---|---|---|
| 汎用AI | ChatGPT、Claude、Gemini、Copilot | 文章作成、要約、翻訳、集計など幅広い作業 | 原則入力しない(法人契約で学習除外されていても慎重に) |
| 医療特化AI | AI問診、医療向け音声認識、AI電子カルテ | 専門用語、診療フロー、算定への対応 | 扱う前提で設計されている |
現実的な運用は、この2階建てです。患者情報を含まない作業は汎用AIで効率化し、患者情報を扱う作業は医療特化AIか電子カルテ側のAIに任せる。汎用AI三社の選び方は ChatGPT・Claude・Geminiはどれを使うべきか で整理しています。
まず何から始めるか——3ステップ
「12個も検討できない」という場合、次の順序が現実的です。
ステップ1:患者情報を含まない事務作業で汎用AIに慣れる(1か月) 院内文書のたたき台や掲示物の文章から始めます。失敗してもリスクがなく、スタッフ全員が「AIは下書きを出すもの」という感覚をつかめます。
ステップ2:受付の定型業務を1つ自動化する(2〜3か月) AI電話かWeb問診のどちらか1つを導入します。効果が電話の本数や受付の待ち時間として数字で見えるため、次の投資判断がしやすくなります。
ステップ3:診療記録のAI化を検討する(半年〜) 医師の入力負担に踏み込みます。ここで初めて、音声入力の後付けかAI電子カルテへの切り替えかという選択が出てきます。
順番を逆にして、いきなり診療記録から始めると、契約・セキュリティ・運用ルールを一度に整える必要があり、頓挫しやすくなります。DX全体の進め方は クリニックDXの始め方 もご参照ください。
導入前に決めておく院内ルール
どの用途であっても、ツールを選ぶ前に院内ルールを文書化しておくことが、後のトラブルを防ぎます。最低限、次の5点です。
- 患者を特定できる情報は汎用AIに入力しない(氏名、生年月日、住所、連絡先、カルテ番号)
- 使ってよい業務の範囲を明示する
- 承認済みのサービスを一覧にする(個人アカウントの持ち込みを防ぐ)
- AIの出力は下書きであり、人が確認して確定する
- 判断に迷ったときの相談先を決める
生成AIの用語に不安がある場合は 生成AIの基本用語をクリニック職員向けに解説、法的な整理は 医療機関で生成AIを使うときの注意点 が参考になります。AIに任せてよい業務の線引きは AIに任せてよい業務・任せてはいけない業務 で扱っています。
よくある誤解
「有料プランなら患者情報を入れても安全」 有料であることと、医療情報の取り扱いに適していることは別です。学習利用の除外、保存場所、契約上の責任範囲を個別に確認する必要があります。
「ツールを1つに統一しなければならない」 用途ごとに違うツールを使うのは普通です。むしろ用途に合わないツールを無理に使い回すほうが、効率も安全性も下がります。
「AIを入れれば業務が自動で減る」 減るのは「下書き」と「定型対応」の工数です。確認・判断・患者への説明は残ります。その前提で期待値を合わせておくと、導入後のがっかりを防げます。
AIカルテについて
ポテックの「AIカルテ」は、⑤で挙げたAIネイティブ電子カルテにあたります。音声からの記録作成、算定チェック、文書生成、経営分析が一つの基盤上でつながっており、個別ツール間の転記を前提としない設計です。個別ツールで効果を実感された後の選択肢として、比較検討の一つに加えていただければ幸いです。
まとめ
- AIツールは用途で分けると選びやすい。診療・文書/事務/受付/集患/電子カルテ一体型の5つ
- 扱う情報の性質が慎重なほど、契約とガイドライン準拠が最優先になる
- 現実的な運用は、汎用AIと医療特化AIの2階建て
- 始める順序は事務→受付→診療記録。逆にすると頓挫しやすい
- ツール選定の前に、患者情報を入力しないなどの院内ルールを文書化する
- 個別ツールの組み合わせに転記の負担を感じたら、AI電子カルテが検討対象になる
AIカルテの詳細やデモのご希望は、お問い合わせください。
