「うちはChatGPTを使っています」「Claudeのほうが文章がいいらしい」「Geminiは無料で使える」——生成AIの話題では、こうしたサービス名が飛び交います。
しかしクリニックがどれを使うかを決めるとき、判断の決め手は性能比較ではありません。本記事では、3つのサービスの違いを整理したうえで、医療機関ならではの選定軸を示します。
免責:本記事は一般的な情報提供です。各サービスの機能・料金・契約条件は頻繁に変わります。導入検討時は必ず各社の最新の公式情報と利用規約をご確認ください。
3つのサービスの基本
まず、誰が提供しているのかを押さえます。
| サービス | 提供元 | 特徴として語られること |
|---|---|---|
| ChatGPT | OpenAI | 最も広く知られ、利用者が多い。周辺サービスや情報が豊富 |
| Claude | Anthropic | 長い文章の扱いや文章表現に定評。安全性の設計を重視 |
| Gemini | Googleのサービス群との連携。検索との親和性 |
いずれも**LLM(大規模言語モデル)**を使った対話型のAIサービスです。基本的にできること——文章を作る、要約する、翻訳する、質問に答える——は共通しています。
重要な前提として、各社は非常に速いペースで新しいモデルを出し続けており、「どれが優秀か」の順位は短期間で入れ替わります。 そのため、特定時点の性能比較を根拠に選ぶと、判断がすぐ古びます。
クリニックの選定軸は「性能」ではない
では何を基準にすべきか。医療情報を扱う以上、優先順位は次のようになります。
軸1:入力した内容が学習に使われないか(最優先)
これが第一の関門です。
無料の一般向けサービスでは、入力内容がサービス改善のために使われる設定になっていることがあります。 この状態で患者情報を入力すれば、情報を外部に提供したことになりかねません。
各社とも、法人向け・API経由の利用では入力内容を学習に使わない扱いが一般的です。ただしプランによって条件が異なるため、必ず契約内容として確認してください。
確認すべき文言の例:
- 入力データがモデルの学習・改善に利用されないこと
- データの保存期間と、保存される場所
- 第三者への提供の有無
軸2:契約形態と責任範囲
同じサービス名でも、契約形態によって扱いが変わります。
| 形態 | 概要 | 医療機関での適性 |
|---|---|---|
| 個人向け無料プラン | 誰でもすぐ使える | 患者情報の入力は不可。院内の一般業務に限定 |
| 個人向け有料プラン | 機能が拡張される | 契約主体が個人。医療機関としての管理が効きにくい |
| 法人向けプラン | 組織単位で契約・管理 | 学習不使用や管理機能が整う。有力な選択肢 |
| API経由 | 自院のシステムに組み込む | 電子カルテ等との連携が可能。ベンダー経由が現実的 |
クリニックの実務では、「職員が個人のアカウントで使う」状態を放置しないことが最初の一歩です。誰が何に使っているか把握できず、患者情報が入力されるリスクを管理できません。
軸3:3省2ガイドラインとの整合
医療情報システムの安全管理には、いわゆる3省2ガイドラインが関わります。外部のAIサービスに情報を渡す場合、その扱いがガイドラインの考え方と整合しているかを確認する必要があります。
詳しくは 3省2ガイドラインをわかりやすく解説、実務ステップは 3省2ガイドライン対応の実務ステップ をご覧ください。
軸4:既存システムと連携できるか
チャット画面に貼り付けて使うのか、電子カルテの中で動くのかで、実務の価値はまったく違います。
チャット画面で使う場合:カルテから情報をコピーし、AIに貼り付け、結果をカルテに戻す。この往復自体が手間であり、コピー&ペーストの過程で情報を取り違えるリスクもあります。
システムに組み込まれている場合:カルテを開いたまま、記録の下書きが生成される。往復がなくなります。
この違いは AIネイティブ電子カルテとはどんなものなのか? で扱っている「後付けか、はじめから組み込まれているか」の違いそのものです。
軸5:コストの構造
一般向けプランは月額の定額制が中心です。API経由では、処理した量(トークン)に応じた従量課金になるのが一般的です。
医療機関向けの製品に組み込まれている場合は、その製品の料金に含まれていることが多く、どのAIを使っているかを意識せずに済むという利点があります。
選定チェックリスト
| 確認項目 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 学習利用 | 入力内容が学習に使われない契約になっているか |
| データ保存 | どこに、どのくらいの期間保存されるか |
| 契約主体 | 個人契約になっていないか。医療機関として管理できるか |
| ガイドライン | 3省2ガイドラインの考え方と整合するか |
| 連携 | 電子カルテ等から直接使えるか。コピペ運用にならないか |
| 権限管理 | 誰が使えるか、記録は残るか |
| 費用構造 | 定額か従量か。想定利用量での試算 |
| 患者情報の扱い | 院内ルールとして入力禁止の範囲を定めたか |
現実的な使い分け——2階建てで考える
多くのクリニックにとって現実的なのは、用途を2階建てに分ける考え方です。
1階:患者情報を含まない業務 → 一般の生成AIサービス
- 院内マニュアルのたたき台を作る
- 求人票の文案を作る
- 研修資料の構成を考える
- 一般的な医学知識の確認(最終的な確認は必ず一次情報で)
この層では、どのサービスを使うかは好みの問題です。無料プランでも実務上の支障は少なく、複数を試して使いやすいものを選べば十分です。
2階:患者情報を扱う業務 → 医療機関向けに設計された仕組み
- カルテの記録
- 紹介状・診断書の作成
- 算定・レセプトの確認
- 患者データの分析
この層では、汎用のチャットサービスに患者情報を貼り付けるという選択肢は取らないのが原則です。医療情報を扱う前提で設計され、契約と権限管理が整った仕組みを使います。
汎用AIと医療特化AIの使い分けは 医師のためのChatGPT活用術 でも扱っています。
よくある誤解
「有料プランにすれば患者情報を入れても安全」 → プランによって学習利用や保存の条件は異なります。有料であることと、医療情報の取り扱いに適していることは別です。契約内容の確認が必要です。
「AIは間違えないから確認は不要」 → ハルシネーションは仕組み上避けられません。人の確認を前提にした運用が必要です。
「どれか1つに決めなければならない」 → 用途によって使い分けて構いません。むしろ2階建てのように、目的に応じて分けるほうが現実的です。
「性能が高いものを選べばよい」 → 医療機関の選定では、契約条件と連携のほうが日々の価値を左右します。性能差は短期間で入れ替わります。
院内ルールとして決めておくこと
サービスを選ぶより先に、院内のルールを決めることが重要です。最低限、次を文書化しておきます。
- 患者を特定できる情報は入力しない(氏名・生年月日・住所・連絡先・カルテ番号など)
- 使ってよい業務の範囲を定める
- 使ってよいサービスを指定する(個人アカウントの野良利用を防ぐ)
- AIの出力は下書きとして扱い、人が確認して確定する
- 困ったときの相談先を明示する
ルールがないまま「便利だから使っている」状態が最も危険です。逆に、ルールがあれば安心して使える範囲が明確になり、活用が進みます。
まとめ
- ChatGPT(OpenAI)・Claude(Anthropic)・Gemini(Google)は別会社の生成AIサービス。基本的にできることは共通
- 各社が高頻度で新モデルを出すため、性能の順位はすぐ入れ替わる。性能比較を根拠に選ぶと判断が古びる
- クリニックの選定軸は、①学習利用 ②契約形態 ③ガイドライン整合 ④既存システムとの連携 ⑤コスト構造
- 最優先は「入力内容が学習に使われないか」。無料の一般向けプランに患者情報を入力してはいけない
- 現実的なのは2階建て——患者情報を含まない業務は一般サービス、患者情報を扱う業務は医療機関向けの仕組み
- サービス選定より先に、院内ルールの文書化を行う
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