「国が電子カルテを作っているらしい」「2030年には電子カルテが義務化されるのでは」——標準型電子カルテをめぐっては、こうした断片的な情報が先行しがちです。本記事では、標準型電子カルテとは何か、なぜ国が開発しているのか、現在どこまで進んでいるのかを整理し、あわせて「自院は標準型を待つべきか、民間製品を導入すべきか」という判断の考え方をまとめます。
免責:本記事は一般的な情報提供です。開発状況・提供時期・機能範囲は今後変わり得ます。実務では必ず最新の一次情報(デジタル庁・厚生労働省の公式資料、検討会・ワーキンググループの資料等)をご確認ください。
医療DX全体の見取り図は 医療DXとは?国の工程表と3本柱をクリニック目線で解説 で整理しています。
標準型電子カルテとは
標準型電子カルテは、国(デジタル庁)が開発し、医療機関に提供する電子カルテです。民間ベンダーの製品と並んで選択肢の一つとなることを想定しています。
医療DXの3本柱のうち「②電子カルテ情報の標準化等」に位置づけられる施策で、開発の狙いは主に次の2点です。
- 電子カルテ未導入の医療機関の解消:規模の小さい診療所を中心に、電子カルテを導入していない医療機関が一定数残っている
- 標準規格に準拠したデータの流通:情報共有の前提となる標準規格(HL7 FHIR等)に最初から対応した電子カルテを広げる
つまり標準型電子カルテは、単体の製品というより全国医療情報プラットフォームにデータを流し込むための入口として構想されている、という理解が実態に近いといえます。
なぜ国が電子カルテを作るのか
電子カルテ情報共有サービスやPMHのような情報共有の仕組みは、そもそも医療機関側にデータが電子的に存在していなければ機能しません。紙カルテのままの医療機関が残る限り、全国的な情報共有には空白が生じます。
一方で、電子カルテを導入していない医療機関には、費用負担、運用変更の負担、そもそも規模が小さく投資回収が難しいといった事情があります。民間市場に任せるだけでは普及が進まない層に対して、国が直接手当てするという判断が背景にあります。
政府目標と現在地
工程表では、標準型電子カルテについて**「遅くとも2030年には概ねすべての医療機関において導入を目指す」**とされています。ここでいう「導入」は標準型電子カルテに限らず、標準規格に対応した電子カルテ全般を含む目標として読むのが自然です。
開発の進捗は次のとおりです。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2024年度 | デジタル庁による開発開始 |
| 2025年3月 | α版のモデル事業を開始(電子カルテ未導入の医療機関が対象) |
| 2025年夏頃 | モデル事業の第2弾 |
| 2026年度中 | 完成を目指すとされる |
α版のモデル事業では、診療情報提供書や処方情報の共有など、全国医療情報プラットフォームとの連携が実地で検証されてきました。2026年前半の時点でまだ本格提供の段階には至っておらず、具体的な提供開始時期は流動的です。
誰が対象になるのか
ここが最も誤解されやすい点です。標準型電子カルテは、主に電子カルテを導入していない医療機関を対象としています。既に電子カルテを使っている医療機関に乗り換えを促すものではありません。
機能範囲も、民間製品と同等ではないと見ておくべきです。α版はモデル事業段階から機能を段階的に追加しており、診療科ごとの専門的な機能や、予約・問診・経営分析といった周辺機能まで広くカバーする設計にはなっていません。
「標準型を待つべきか」の判断軸
電子カルテ未導入のクリニックにとっては、現実的な選択肢が2つあります。判断の目安を整理します。
標準型電子カルテを待つことが合理的なケース
- 診療内容がシンプルで、カルテ記載と処方が中心
- 予約・問診・画像連携などの周辺機能をほとんど使わない
- 初期費用・ランニングコストを最優先で抑えたい
- 開業から日が浅く、当面は紙運用でも回る規模
民間の電子カルテを選ぶほうが合理的なケース
- 診療科特有の機能が必要(眼科の検査機器連携、整形外科のPACS連携、小児科の成長曲線など)
- 予約・Web問診・オンライン診療など、周辺業務まで含めて効率化したい
- レセコン一体型で医事業務まで一気通貫にしたい
- 音声入力やAIによる記載支援など、日々の入力負担を下げたい
- 具体的な時期が確定していないものを待つより、今の業務課題を早く解決したい
とくに最後の点は重要です。標準型電子カルテの本格提供時期は明確に確定しているわけではありません。「待つ」という判断は、その間の非効率を受け入れる判断でもあることを踏まえて検討する必要があります。
電子カルテは義務化されるのか
「2030年に電子カルテが義務化される」という表現を目にすることがありますが、工程表の記述は「概ねすべての医療機関において導入を目指す」という目標であり、罰則を伴う義務として定められているものではありません。
ただし、診療報酬の側から実質的な誘導は進んでいます。医療DX推進体制整備加算をはじめとする加算は、オンライン資格確認、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスへの対応を施設基準に組み込んでおり、電子カルテがなければ満たせない要件が増えていきます。義務ではないが、対応しないことの機会損失が拡大していくというのが実態に近い理解です。
AIカルテでの対応
AIネイティブ電子カルテ「AIカルテ」は、標準規格への対応を前提としつつ、音声入力によるカルテ自動生成、レセコン一体型の医事業務、AIレセチェック、経営分析までを一つのサービスで提供します。標準型電子カルテが主に「電子カルテ未導入の解消」を担うのに対し、AIカルテは日々の診療・医事業務そのものの効率を引き上げることを目的としています。診療科ごとの運用に合わせた導入のご相談も承っています。
おわりに
標準型電子カルテは、電子カルテ未導入の医療機関を主な対象として、全国的な情報共有の土台を埋めるための施策です。既に電子カルテを使っている医療機関が乗り換えを検討する性質のものではなく、また機能範囲も民間製品と同列に比較するものではありません。未導入のクリニックにとっては現実的な選択肢の一つですが、提供時期が確定していない点と、機能が限定的である点を踏まえたうえで、自院の診療内容と業務課題に照らして判断することが重要です。
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