この記事の要点
- 標準型電子カルテとは、デジタル庁で開発が進む、医科無床診療所向けのクラウドネイティブな電子カルテです。現在は国の医療DX対応機能に絞った「導入版」を開発中で、2026年度中の完成を目指しています。
- 導入版は紙カルテとの併用を想定し、電子カルテ情報共有サービスでの診療情報提供書・検査データの閲覧や登録、電子処方箋の発行などを可能にするものです。
- 2026年9月の「電子カルテ普及計画」では、標準仕様に準拠したクラウドネイティブ型電子カルテの認証制度を創設し、2027年度以降に認証製品の普及を支援する方針が示されました。
- 法律上は、政府が2030年(令和12年)12月31日までに電子カルテ普及率約100%を達成するよう努める規定がありますが、医療機関に導入を義務づけるものではありません。
「国が電子カルテを作っているらしい」「2030年には電子カルテが義務化されるのでは」——標準型電子カルテをめぐっては、こうした断片的な情報が先行しがちです。本記事では、標準型電子カルテとは何か、なぜ国が開発しているのか、現在どこまで進んでいるのかを整理し、あわせて「自院は標準型を待つべきか、民間製品を導入すべきか」という判断の考え方をまとめます。
免責:本記事は一般的な情報提供です。開発状況・提供時期・機能範囲は今後変わり得ます。実務では必ず最新の一次情報(デジタル庁・厚生労働省の公式資料、検討会・ワーキンググループの資料等)をご確認ください。
医療DX全体の見取り図は 医療DXとは?国の工程表と3本柱をクリニック目線で解説 で整理しています。
標準型電子カルテとは
標準型電子カルテとは、国(デジタル庁)が開発を進める、医科無床診療所向けのクラウドネイティブな電子カルテです。 電子カルテを導入していない診療所でも、電子カルテ情報共有サービスや電子処方箋といった国の医療DXサービスを使えるようにすることが主な狙いです。
2026年時点では、国の医療DX対応機能に絞った**「標準型電子カルテ(導入版)」**を開発中で、2026年度中の完成を目指すとされています(厚生労働省 医療等情報利活用ワーキンググループ資料、2026年3月・6月)。導入版のコンセプトは次のとおりです。
- 紙カルテや現行の業務はそのままに、国の医療DXに対応できるようにする(診療録は紙カルテに記載し、導入版で閲覧・登録する使い方を想定)
- 電子カルテ情報共有サービスを利用する医療機関からの診療情報提供書や検査データを閲覧できる
- 入力すれば診療情報提供書の送付や電子処方箋の発行ができる
- 外注の検査機関と連携し、自院の検査データを共有サービスに登録できる
- クリック操作を中心にしたシンプルな画面
民間ベンダーの製品と並んで、選択肢の一つとなることを想定しています。
医療DXの3本柱のうち「②電子カルテ情報の標準化等」に位置づけられる施策で、開発の狙いは主に次の2点です。
- 電子カルテ未導入の医療機関の解消:規模の小さい診療所を中心に、電子カルテを導入していない医療機関が一定数残っている
- 標準規格に準拠したデータの流通:情報共有の前提となる標準規格(HL7 FHIR等)に最初から対応した電子カルテを広げる
つまり標準型電子カルテは、単体の製品というより全国医療情報プラットフォームにデータを流し込むための入口として構想されている、という理解が実態に近いといえます。
なぜ国が電子カルテを作るのか
電子カルテ情報共有サービスやPMHのような情報共有の仕組みは、そもそも医療機関側にデータが電子的に存在していなければ機能しません。紙カルテのままの医療機関が残る限り、全国的な情報共有には空白が生じます。
一方で、電子カルテを導入していない医療機関には、費用負担、運用変更の負担、そもそも規模が小さく投資回収が難しいといった事情があります。民間市場に任せるだけでは普及が進まない層に対して、国が直接手当てするという判断が背景にあります。
普及率の実態
厚生労働省が2025年1月に公表した調査によれば、電子カルテの普及状況は次のとおりです(令和5年)。
| 区分 | 普及率 |
|---|---|
| 一般病院(全体) | 65.6% |
| 400床以上 | 93.7% |
| 200〜399床 | 79.2% |
| 200床未満 | 59.0% |
| 一般診療所 | 55.0% |
大規模病院はほぼ導入済みである一方、200床未満の中小病院と一般診療所が半数強にとどまっていることが分かります。ここが標準型電子カルテの主戦場です。平成20年(一般病院14.2%、一般診療所14.7%)からの伸びを見ると普及は着実に進んでいますが、2030年に概ね全医療機関という目標には、残る4〜5割をどう動かすかという課題が残ります。
国の方針とスケジュール
政府目標
- 医療DXの推進に関する工程表(2023年6月、医療DX推進本部):「遅くとも2030年には概ねすべての医療機関において必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指す」。これは標準型電子カルテに限らず、電子カルテ全般の普及目標です
- 地域医療介護総合確保法 第12条の3第4項(国会修正で追加):政府は、令和12年(2030年)12月31日までに電子カルテの普及率が約100%となることを達成するよう、クラウド技術の活用を含め、医療機関の業務における情報の電子化を実現しなければならない
国はあわせて、オンプレ型でカスタマイズされた現行の電子カルテから、クラウドネイティブを基本とする廉価なものへの移行を図る方針を示しています。
現在地(2026年10月時点)
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2025年度 | 医科診療所向け電子カルテの**標準仕様(基本要件)**の策定(標準型電子カルテの要件を参考に策定する方針) |
| 2026年度中 | 標準型電子カルテ(導入版)の完成を目指す |
| 2026年9月9日 | 厚生労働省が**「電子カルテ普及計画」**を公表 |
| 2026年度 | 普及計画の工程では、導入版のモデル事業、標準仕様に準拠した製品の認証制度の創設・申請受付・審査 |
| 2027年度〜 | 認証されたクラウドネイティブ型電子カルテ製品の普及支援(令和9年度概算要求に盛り込まれた施策) |
電子カルテ普及計画は、2030年までに電子カルテ普及率約100%などを目指すとし、主に中小病院・医科診療所向けの対策として、認証されたクラウドネイティブ型電子カルテ製品の普及支援を中心に据えています。標準型電子カルテ・導入版は、そこに至るまでの経過的な対応として、紙カルテの利用を続けたい医科診療所向けに位置づけられています。導入版の普及の具体的な方策は、その時点で実装している機能等を踏まえて判断するとされています。
標準仕様と認証制度
国は、民間のクラウド型電子カルテについても「標準仕様」を定め、準拠した製品を厚生労働省が認証する制度を検討しています。2026年6月のワーキンググループ資料では、医科診療所/中小病院向け標準仕様の主な項目として次のようなものが示されています。
- オンライン資格確認、電子処方箋管理サービス、電子カルテ情報共有サービス、クラウド型レセコンとの接続機能
- 稼働率の実績99.9%以上
- ISMAP、またはISMS認証とISMSクラウドセキュリティ認証の取得、第三者によるペネトレーションテスト
- 電子カルテの三原則(真正性・保存性・見読性)の担保、データの国内保持
- マルチテナント方式のSaaS型であること、個別カスタマイズに対応しない仕様であること
- 価格(オプションを含む)のWebサイトでの公開
標準型電子カルテの完成を待たなくても、これから選ぶ電子カルテが標準仕様・認証に対応していく製品かどうかが、今後の重要な判断材料になります。
誰が対象になるのか
ここが最も誤解されやすい点です。標準型電子カルテは、主に電子カルテを導入していない医科診療所を対象としています。既に電子カルテを使っている医療機関に乗り換えを促すものではありません。

特徴的なのは、紙カルテとの併用を想定している点です。ターゲットは紙カルテを使っているクリニックの高齢医師であり、「紙をやめさせる」ことよりも「医療情報の連携・活用の入口を作る」ことに設計の重心が置かれています。開発では次のような問いが検討されました。
- 医療DX基盤に完全連携し、それらの機能・データ活用を前提にした電子カルテとして再設計できないか
- どうやったら高齢医師でも使いやすい電子カルテにできるか
- 電子カルテのUIが分かりにくい。利便性の高いものにアップデートできないか
- 電子カルテ3要件やセキュリティ要件を分解・再整理できないか
- 外注検査データ連携のAPI化を進められないか
機能範囲は民間製品と同等ではないと見ておくべきです。診療科ごとの専門的な機能や、予約・問診・経営分析といった周辺機能まで広くカバーする設計にはなっていません。
情報設計の特徴

α版のカルテ画面は、カルテ記載エディタや処方登録が前面に来ない情報設計になっています。画面の中心にあるのは患者プロファイル(バイタル、予防接種歴、体内異物、女性特有情報、既往歴、薬剤アレルギー、感染症など)で、右側に外部医療機関から取得したデータが常時表示されます。
これは従来の電子カルテとは逆の発想です。従来型が「記載するための道具」であるのに対し、α版は「患者を把握するための道具」として設計されている、と言い換えられます。電子カルテ情報共有サービスと連携することで、外部医療機関の情報がカルテの中で閲覧できるようになる——この体験を前提に画面が組まれています。
外注検査データのAPI連携

もう一つの特徴が、外注検査データのAPIによる完全自動連携です。検査結果を時系列で比較表示でき、その一部は電子カルテ情報共有サービス経由でマイナポータルからも閲覧できるようになります。紙やFAXでの結果受け取りや手入力を前提としない設計は、中小規模の医療機関ほど効果が大きい部分です。
標準要件が既存カルテからの移行を左右する
標準型電子カルテと同じ「電子カルテ情報の標準化(標準要件)」は、既存カルテから乗り換えるときのデータ移行のしやすさにも直結します。HL7 FHIR・SS-MIX2・標準コードを前提にした移行方式と、それでも残る限界については電子カルテの標準要件に沿ったデータ移行の方法で整理しています。
「標準型を待つべきか」の判断軸
電子カルテ未導入のクリニックにとっては、現実的な選択肢が2つあります。判断の目安を整理します。
標準型電子カルテを待つことが合理的なケース
- 診療内容がシンプルで、カルテ記載と処方が中心
- 予約・問診・画像連携などの周辺機能をほとんど使わない
- 初期費用・ランニングコストを最優先で抑えたい
- 開業から日が浅く、当面は紙運用でも回る規模
民間の電子カルテを選ぶほうが合理的なケース
- 診療科特有の機能が必要(眼科の検査機器連携、整形外科のPACS連携、小児科の成長曲線など)
- 予約・Web問診・オンライン診療など、周辺業務まで含めて効率化したい
- レセコン一体型で医事業務まで一気通貫にしたい
- 音声入力やAIによる記載支援など、日々の入力負担を下げたい
- 具体的な時期が確定していないものを待つより、今の業務課題を早く解決したい
とくに最後の点は重要です。標準型電子カルテの本格提供時期は明確に確定しているわけではありません。「待つ」という判断は、その間の非効率を受け入れる判断でもあることを踏まえて検討する必要があります。
日本医師会のスタンス
標準型電子カルテをめぐる議論では、日本医師会の医療IT委員会答申「医療DXを適切に推進するための医師会の役割」(令和6年6月)が一つの基準になっています。答申は、紙カルテを完全に電子カルテへ置き換えることは不可能であり、そもそもそれを目指すべきではないという立場を示したうえで、**「仮に紙カルテを使い続けたとしても、恩恵を受ける事ができるような医療DXを目指すべき」**としています。
この指摘は、標準型電子カルテが紙カルテとの併用を前提に設計されていることと整合します。医療DXの目標は電子カルテの導入率そのものではなく、情報連携の恩恵を医療現場と患者に届けることにある、という考え方です。
電子カルテは義務化されるのか
「2030年に電子カルテが義務化される」という表現を目にすることがありますが、工程表の記述は「概ねすべての医療機関において導入を目指す」という目標です。地域医療介護総合確保法の規定も、2030年12月31日までに普及率約100%を達成するよう政府に求めるものであり、医療機関に罰則付きで導入を義務づけるものではありません。
ただし、診療報酬の側から実質的な誘導は進んでいます。電子的診療情報連携体制整備加算をはじめとする加算は、オンライン資格確認、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスへの対応を施設基準に組み込んでおり、電子カルテがなければ満たせない要件が増えていきます。義務ではないが、対応しないことの機会損失が拡大していくというのが実態に近い理解です。
AIカルテでの対応
AIネイティブ電子カルテ「AIカルテ」は、標準規格への対応を前提としつつ、音声入力によるカルテ自動生成、レセコン一体型の医事業務、AIレセチェック、経営分析までを一つのサービスで提供します。標準型電子カルテが主に「電子カルテ未導入の解消」を担うのに対し、AIカルテは日々の診療・医事業務そのものの効率を引き上げることを目的としています。診療科ごとの運用に合わせた導入のご相談も承っています。
おわりに
標準型電子カルテは、電子カルテ未導入の医療機関を主な対象として、全国的な情報共有の土台を埋めるための施策です。既に電子カルテを使っている医療機関が乗り換えを検討する性質のものではなく、また機能範囲も民間製品と同列に比較するものではありません。未導入のクリニックにとっては現実的な選択肢の一つですが、提供時期が確定していない点と、機能が限定的である点を踏まえたうえで、自院の診療内容と業務課題に照らして判断することが重要です。
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よくある質問
- Q. 標準型電子カルテとは何ですか?
- A. 国(デジタル庁)が開発を進める、医科無床診療所向けのクラウドネイティブな電子カルテです。電子カルテ未導入の診療所でも、電子カルテ情報共有サービスや電子処方箋といった国の医療DXサービスを使えるようにすることが主な狙いです。
- Q. 標準型電子カルテはいつから使えますか?
- A. 厚生労働省の資料では、国の医療DX対応機能に限定した「導入版」について、2026年度中の完成を目指すとされています。2026年9月の電子カルテ普及計画の工程では、導入版は2026年度にモデル事業を行い、その後の普及の方策は実装している機能等を踏まえて判断するとされています。
- Q. 電子カルテは2030年に義務化されますか?
- A. 医療機関に導入を義務づける規定はありません。地域医療介護総合確保法には、政府が2030年(令和12年)12月31日までに電子カルテの普及率を約100%とすることを達成するよう、医療機関の業務の電子化を実現しなければならないとする規定があります。これは政府の責務です。
- Q. すでに電子カルテを使っているクリニックは標準型に乗り換える必要がありますか?
- A. 必要はありません。国の方針では、導入済みの医療機関は次回の更新時に、標準仕様に準拠したクラウド型システムや政府の医療DXサービスに対応した製品へ移行することが想定されています。