診断書、紹介状、意見書、療養計画書、同意書——クリニックで作成する文書は多岐にわたります。そしてその多くは、毎回ゼロから書いているわけではありません。似た文書を過去に何度も書いているはずです。
この「似た文書を繰り返し作る」という構造に効くのが、テンプレート(ひな形)です。そしてAIは、テンプレートをめぐる作業を2つの段階で変えます。本記事では、その2段階を整理します。
免責:本記事は一般的な情報提供です。文書の様式・記載要件は制度改定で変わり得ます。実務では必ず最新の一次情報をご確認ください。
従来のテンプレート運用が抱えていた3つの問題
まず、なぜテンプレートがうまく機能してこなかったのかを整理します。
① 作るのが大変。 テンプレートを整えるには、過去の文書を集め、共通部分を抜き出し、可変部分を決め、様式に落とす——という作業が必要です。この初期投資が重いため、「必要だとわかっているが手が回らない」状態が続きます。
② 増えすぎて探せない。 診療科別、疾患別、提出先別に作っていくと、テンプレートが数十から数百に増えます。探す時間が、書く時間を上回るという逆転が起きます。
③ 更新されない。 制度改定で様式が変わっても、テンプレートは自動では変わりません。誰も更新しないまま古い様式が使われ続けます。
AIは、この3つそれぞれに効きます。
段階①:テンプレートを「作る」
まず、過去の文書からひな形そのものを起こすという使い方です。
これまで人が手作業でやっていた「共通部分を抜き出す」という工程を、AIに任せます。
過去に書いた同種の診断書を10通渡して、「これらに共通する構成と定型的な表現を抽出し、患者ごとに変わる部分を空欄にしたひな形を作ってください」と指示する
これができると、①の初期投資の重さが大きく下がります。「テンプレートを作りたいが時間がない」という状態から抜け出せます。
このとき指示に含めると効果的な要素があります。
- どこを可変にするか:患者名・日付・診断名・所見など
- どこを固定にするか:定型的な文言、法令上必要な記載
- 記載要件:提出先が求める項目を落とさない
- 分岐:条件によって書き分ける部分(初回か継続か、など)
なお、過去の文書をAIに渡す際は、患者を特定できる情報を除いてから渡すのが原則です。匿名化した状態で構成だけを抽出させます。
段階②:テンプレート「から」生成する
次に、できたひな形に情報を流し込んで下書きを作る段階です。ここが日々の業務で効いてくる部分です。
ここで重要なのが、従来の差し込みとAI生成の違いです。
| 観点 | 従来の定型文・差し込み | AIによる生成 |
|---|---|---|
| 埋め方 | 決まった場所に、決まった項目を機械的に挿入 | 記録の内容を読んで、適切な表現に整えて書く |
| 対応範囲 | あらかじめ設定した項目のみ | 設定していない状況にもある程度対応 |
| 文章 | 定型文のつなぎ合わせ。不自然になりやすい | 前後の文脈に合わせて自然につながる |
| 例外 | 想定外のケースは手作業 | ある程度は文脈から判断 |
| 正確性 | 入れた通りに入る(確実) | 表現が変わる可能性がある(要確認) |
決定的な違いは最後の行です。
従来の差し込みは「入れた通りに入る」ので確実です。一方、AI生成は文章として整える過程で表現が変わる可能性があるため、確認が必要になります。
つまり、両者は優劣ではなく使い分けです。
- 法令で文言が決まっている部分(同意書の定型文など)→ 差し込みで確実に
- 記録の内容を要約して書く部分(現病歴、経過、所見など)→ AI生成が効く
実務では、この2つを組み合わせた構成が現実的です。
クリニックで対象になる文書
| 文書 | AIの効きやすさ | 理由 |
|---|---|---|
| 診療情報提供書(紹介状) | ◎ | 経過の要約が中心。カルテから情報を取れる |
| 診断書・証明書 | ◎ | 定型部分が多く、可変部分が明確 |
| 意見書(自立支援・障害年金等) | ○ | 記載要件が多い。抜け防止に効く |
| 療養計画書 | ◎ | 検査値・処方から自動生成しやすい |
| 退院サマリ | ◎ | 入院中の記録を要約する構造 |
| 同意書・説明文書 | △ | 法令上の文言は固定すべき。説明部分のみAI |
| 返戻・査定への返信 | ○ | 過去の対応パターンを踏まえられる |
| 院内マニュアル・手順書 | ◎ | 患者情報を含まないため扱いやすい |
最後の行は見落とされがちですが、患者情報を含まないため、最初に試す領域として最適です。院内ルールの整備が済んでいなくても着手できます。
具体的な文書作成の実例は 生成AIで医療文書はここまで作れる、精神科での実務は 診療情報提供書・診断書の自動作成でここまで変わる精神科の書類業務、自立支援医療の例は 自立支援医療の診断書作成を効率化、療養計画書は 療養計画書をカルテから自動作成 で扱っています。
「探せない」問題への効き方
冒頭の②——テンプレートが増えすぎて探せない——にも、AIは効きます。
従来は、フォルダ構造やファイル名で探すしかありませんでした。「整形外科_診断書_保険会社用_v3.docx」といった名前を頼りに探すわけです。
AIによる検索では、「保険会社に出す、骨折の診断書のひな形」と話し言葉で探せるようになります。分類の階層を覚えていなくても到達できます。
この仕組みは AI検索とは?キーワード検索との違いとRAG で詳しく扱っています。
さらに進めば、そもそもテンプレートを選ばないという形もあり得ます。「この患者の紹介状を作って」と指示すれば、AIが文書の種類と提出先から適切な構成を判断する——探す工程自体がなくなる方向です。
「更新されない」問題への向き合い方
③のテンプレート陳腐化は、AIだけでは解決しません。ここは運用の設計が必要です。
制度改定時の棚卸しを決めておく。 診療報酬改定や様式変更のタイミングで、影響を受けるテンプレートを洗い出す担当と時期を決めます。
テンプレートに日付を残す。 いつ作成・更新されたかがわかる状態にしておくと、古いものを見分けられます。
使われていないテンプレートを減らす。 使用頻度がわかるなら、使われていないものは思い切って整理します。数が減るほど更新もしやすくなります。
様式が定められている文書は、様式の出所を記録する。 どの通知・告示に基づく様式かを残しておくと、改定時に追いやすくなります。
実際、今回の令和8年度改定では療養計画書の患者署名が不要になるなど、様式に関わる変更は継続的に起こります。詳細は 2026年改定で変わる医療DX関連加算 をご覧ください。
良いテンプレートの条件
AIに作らせる場合も、人が作る場合も、共通する条件があります。
可変部分が明示されている。 どこを埋めるべきかが一目でわかる。
記載要件が漏れない。 提出先が求める項目が構造として含まれている。
分岐が整理されている。 「初回の場合」「継続の場合」で書き分ける部分が明確。
根拠が追える。 その様式がどの制度に基づくかがわかる。
長すぎない。 何でも書ける汎用テンプレートは、結局どこを使うか判断できず使われなくなります。用途を絞ったほうが実用的です。
注意点——確定は必ず人が行う
AIが作るのは下書きです。確定は人が行います。
とくに医療文書では、次の点に注意が必要です。
事実と異なる記載が混入しうる。 AIは文章として自然になるよう整えるため、ハルシネーションの可能性があります。カルテにない内容が書かれていないか確認します。
表現が断定的になりやすい。 「疑い」「可能性がある」といった幅のある表現が、生成の過程で断定に変わることがあります。
要約で情報が落ちる。 経過をまとめる過程で、重要な陰性所見や除外した鑑別が落ちることがあります。詳しくは サマライズ(要約)とは をご覧ください。
責任は作成者にある。 文書に署名する医師が内容の責任を負うという構造は変わりません。線引きの考え方は AIに任せてよい業務・任せてはいけない業務の線引き で扱っています。
着手の順番
現実的な進め方を示します。
- 院内文書から始める(マニュアル・手順書)——患者情報を含まず、リスクが低い
- 定型性の高い文書へ(診断書・証明書)——効果が見えやすい
- 要約を含む文書へ(紹介状・退院サマリ)——効果は大きいが確認が要る
- 記載要件の多い文書へ(各種意見書)——抜け防止の効果が大きい
各段階で、削れた時間が何に使われているかを測っておくと、次の判断がしやすくなります。
まとめ
- AIによる文書作成には、①テンプレートを作る段階と②テンプレートから生成する段階の2つがある
- 従来のテンプレート運用の課題は作るのが大変・増えすぎて探せない・更新されないの3つ
- ①により初期投資の重さが下がる。過去文書からひな形を起こせる(患者情報は除いてから渡す)
- ②では、従来の差し込みは確実、AI生成は表現が変わりうる。法令上固定すべき文言は差し込み、要約が必要な部分はAI生成、という組み合わせが現実的
- 探せない問題はAI検索で改善するが、更新されない問題は運用設計が必要
- 最初に着手すべきは患者情報を含まない院内文書
- AIが作るのは下書き。確定は人が行い、責任の構造は変わらない
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