この記事の要点
- カルテ(診療録)の保存期間は、医師法第24条第2項で5年間です。勤務医が書いた診療録は病院・診療所の管理者が、それ以外はその医師本人が保存義務を負います。
- 保険医療機関は、療養担当規則第9条により、診療録を完結の日から5年間、療養の給付の担当に関する帳簿・書類その他の記録を完結の日から3年間保存します。
- 病院は、医療法施行規則第20条第10号により、看護記録・検査所見記録・エックス線写真・処方せん等の「診療に関する諸記録」を過去2年間分備えておく必要があります。
- 電子保存は、e-文書法と厚生労働省令にもとづき、真正性・見読性・保存性の三条件を満たすことが前提です。具体的な対策は「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(現行は第7.0版)に示されています。
「カルテは何年保存すればよいのか」「看護記録や検査データも同じ5年なのか」「5年を過ぎたら捨ててよいのか」——開業準備や閉院、電子カルテへの移行のたびに確認されるテーマです。本記事では、医師法・保険医療機関及び保険医療養担当規則(療養担当規則)・医療法施行規則の条文にもとづいて、カルテ(診療録)とその他の記録の保存期間、起算点、電子保存の要件を整理します。
免責:本記事は2026年10月31日時点の公表情報にもとづく一般的な情報提供です。法令・通知・ガイドラインは改正されることがあります。個別の保存・廃棄の判断は、最新の原文を確認のうえ、必要に応じて保健所・地方厚生局・弁護士等の専門家にご相談ください。
結論:カルテは5年、その他の記録は3年または2年
先に結論を表にまとめます。
| 記録 | 保存期間 | 根拠 | 対象 |
|---|---|---|---|
| 診療録(カルテ) | 5年間 | 医師法第24条第2項 | すべての医師の診療 |
| 診療録(カルテ) | 完結の日から5年間 | 療養担当規則第9条ただし書 | 保険医療機関 |
| 療養の給付の担当に関する帳簿・書類その他の記録 | 完結の日から3年間 | 療養担当規則第9条 | 保険医療機関 |
| 診療に関する諸記録(病院日誌、各科診療日誌、処方せん、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真、入院患者及び外来患者の数を明らかにする帳簿、入院診療計画書) | 過去2年間分を備える | 医療法第21条第1項第9号、医療法施行規則第20条第10号 | 病院 |
| 歯科の診療録 | 5年間 | 歯科医師法第23条第2項 | 歯科医師の診療 |
| 助産録 | 5年間 | 保健師助産師看護師法第42条第2項 | 助産師の助産 |
| 調剤済みの処方せん(薬局) | 調剤済みとなった日から3年間 | 薬剤師法第27条 | 薬局開設者 |
| 調剤録(薬局) | 最終の記入の日から3年間 | 薬剤師法第28条第3項 | 薬局開設者 |
ポイントは、根拠となる法令が複数あり、それぞれ対象と起算点が違うことです。順に見ていきます。
医師法第24条:診療録は5年間
医師法第24条は、診療録の記載と保存を定めた条文です。
- 第1項:医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない
- 第2項:前項の診療録であって、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院又は診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、5年間これを保存しなければならない
保存義務を負うのは、勤務医が書いたカルテなら病院・診療所の管理者、それ以外(往診のみを行う医師など)なら医師本人です。保険診療か自費診療かを問わず適用されます。
療養担当規則第9条:診療録5年、その他の記録3年
保険医療機関には、療養担当規則第9条が加わります。
保険医療機関は、療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録をその完結の日から三年間保存しなければならない。ただし、患者の診療録にあつては、その完結の日から五年間とする。
ここで重要なのは2点です。
- 診療録は「完結の日から」5年間
- 診療録以外の「療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録」は完結の日から3年間
条文は「その他の記録」の具体的な名称を列挙していません。看護記録、検査の記録、エックス線写真、処方箋の控えなど、保険診療にかかわる記録をどこまで3年の対象として扱うかは、院内の文書管理規程で明確にしておくことをおすすめします。
医療法施行規則:病院の「診療に関する諸記録」は2年
病院には、医療法第21条第1項第9号で「診療に関する諸記録」を備えておく義務があります。その内容は、医療法施行規則第20条第10号で次のように定められています。
診療に関する諸記録は、過去二年間の病院日誌、各科診療日誌、処方せん、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真、入院患者及び外来患者の数を明らかにする帳簿並びに入院診療計画書とする。
地域医療支援病院(医療法施行規則第21条の5)と特定機能病院(同第22条の3)では、これに紹介状や退院した患者の入院期間中の診療経過の要約などが加わります。
医療法第21条第1項は病院に関する規定で、診療所(療養病床を有する診療所を定めた同条第2項を含む)には「診療に関する諸記録」の備え付けは掲げられていません。保険医療機関である診療所では、看護記録や検査記録は療養担当規則第9条の「その他の記録」(3年)にあたるかどうかで考えることになります。
歯科・助産・薬局の記録
- 歯科:歯科医師法第23条第2項で、診療録の保存期間は医科と同じく5年間です。保存義務者の考え方(勤務先の管理者/歯科医師本人)も医師法と同じです
- 助産録:保健師助産師看護師法第42条第2項で5年間です
- 薬局:薬剤師法第27条で、調剤済みの処方せんは調剤済みとなった日から3年間、第28条第3項で調剤録は最終の記入の日から3年間の保存が薬局開設者に義務づけられています
保存期間はいつから数えるか(起算点)
起算点は法令によって書き方が違います。
| 法令 | 起算点の書き方 |
|---|---|
| 医師法第24条 | 明文なし(「5年間これを保存」) |
| 療養担当規則第9条 | 「その完結の日から」 |
| 薬剤師法第27条 | 「調剤済みとなつた日から」 |
| 薬剤師法第28条 | 「最終の記入の日から」 |
保険医療機関であれば、療養担当規則に合わせて診療が完結した日から5年と管理するのが実務的です。通院が続いている患者のカルテは、初診から何年たっていても保存期間のカウントが始まっていない、という点に注意してください。「完結の日」を具体的にどう判定するかの定義規定は条文上にないため、最終受診日を基準にするなど、院内ルールを決めて運用することが大切です。
5年を過ぎたら廃棄してよいか
法令が定めているのは最低限の保存期間です。期間を過ぎた記録の廃棄が義務づけられているわけではありません。廃棄の判断にあたっては、次の点を考慮します。
損害賠償請求の時効
医療事故などで損害賠償を請求された場合、カルテは重要な証拠になります。民法では、次の時効期間が定められています。
| 請求の根拠 | 時効期間 | 条文 |
|---|---|---|
| 不法行為(人の生命・身体を害するもの) | 損害及び加害者を知った時から5年、不法行為の時から20年 | 民法第724条、第724条の2 |
| 債務不履行(人の生命・身体の侵害) | 権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から20年 | 民法第166条第1項、第167条 |
つまり、法定保存期間の5年を過ぎても、請求を受ける可能性は残ります。保存期間を5年より長く設定している医療機関もありますが、どこまで延ばすかは診療内容・保管コスト・リスクを踏まえて各医療機関が判断する事項です。
個人情報保護との兼ね合い
一方、個人情報保護法第22条は、個人データを利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努めなければならないと定めています(努力義務)。「念のため永久に保存」ではなく、保存期間を院内規程で定め、期間を過ぎたものは計画的に廃棄する運用が求められます。
廃棄の方法
カルテは要配慮個人情報を含むため、紙は溶解・裁断、電子データは復元できない方法での消去など、確実な方法で行い、廃棄の記録を残します。外部保存を委託している場合は、保存期間や委託終了時の破棄・返却の手順を契約書に明記しておくことが、ガイドライン(企画管理編)でも求められています。
電子カルテで保存する場合の要件
e-文書法と厚生労働省令
診療録は、「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」(e-文書法)と「厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令」(平成17年厚生労働省令第44号)により、電磁的記録で保存することが認められています。省令の別表には、医師法第24条の診療録、歯科医師法第23条の診療録、療養担当規則第9条の記録、医療法第21条の診療に関する諸記録などが掲げられています。
電子保存の三原則
省令第4条第4項と、施行通知(平成17年3月31日医政発第0331009号ほか)第二の2(3)は、電子保存の条件として次の3つを求めています。
| 原則 | 内容 |
|---|---|
| 真正性 | 保存期間中の改変・消去の事実の有無と内容を確認でき、作成の責任の所在が明らかであること。故意・過失による虚偽入力、書換え、消去、混同を防止する |
| 見読性 | 必要に応じて、直ちに明瞭かつ整然とした形式で画面に表示し、書面を作成できること |
| 保存性 | 保存すべき期間中、復元可能な状態で保存できる措置を講じていること |
医療情報システムの安全管理に関するガイドライン
三原則を満たすための具体的な対策は、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に示されています。2023年5月の第6.0版で読者別の分冊構成になり、現行は2026年6月に策定された第7.0版(概説編・経営管理編・企画管理編・システム運用編・保守委託機関編の5編)です。構成と改定点は 医療情報システムの安全管理に関するガイドラインとは で解説しています。
保存性の観点では、保存期間中にシステムを更新・移行してもデータを読み出せることが重要です。ガイドライン(システム運用編)は、標準規格を採用するなどして保存性の要件に対応することを求めています。バックアップは 医療機関のバックアップ設計、真正性を支える記録の追跡は ログ管理と監査証跡 をあわせてご覧ください。
クラウドなど外部に保存する場合
診療録等を医療機関の外に保存する場合は、「診療録等の保存を行う場所について」(平成14年3月29日医政発第0329003号・保発第0329001号、平成25年3月25日最終改正)の基準を満たすことが前提です。外部に委託しても、保存義務を負うのは医療機関側である点は変わりません。
紙カルテのスキャン保存
省令第4条第1項第2号は、書面をスキャナで読み取ってできた電磁的記録による保存を認めています。ガイドライン第7.0版(システム運用編)は、紙媒体の電子化について次の点を示しています。
- 保存義務を満たす情報として必要な情報量を確保するため、光学解像度、センサ等の一定の規格・基準を満たすスキャナを用いる
- スキャン前に、書類が重なって貼り付いているなど、電子化できる範囲の外に情報がないか確認する
- スキャンでは元の紙と同等にはならず、保存できない有用な情報もあり得るため、電子化は慎重に行う。電子化後に元の紙も保存することは真正性・保存性確保の観点から極めて有効
- 電子化後も紙の保存を続ける場合、電子化した情報は参照情報であり、保存義務等の要件は課せられない(個人情報保護上の配慮は同等に必要)
紙を廃棄して電子データを正本とするのか、紙を正本として残し電子データを参照用にするのかで、求められる対応が変わります。OCRで文字データ化する場合の考え方は OCRとは?、紙カルテから電子カルテへの移行手順は 紙カルテから電子カルテへの移行 を参照してください。
閉院する場合の注意点
閉院時の診療録の保管について、保管先や手続きを具体的に定めた法令上の規定は、本記事の調査範囲では確認できませんでした。医師法第24条第2項の保存義務は、診療所の管理者(または医師本人)に課されています。閉院・承継を予定している場合は、次の点を早めに決めておくことをおすすめします。
- 閉院後に誰が、どこで、いつまで保存するのか(承継先がある場合は引き継ぎの範囲)
- 患者からの開示請求や、転院先からの照会にどう対応するか
- 電子カルテの場合、契約終了後もデータを読み出せる形式で取り出せるか(ベンダーとの契約内容の確認)
具体的な手続きは、所管の保健所や都道府県に確認してください。電子カルテのデータ移行の注意点は 電子カルテのデータ移行ガイド にまとめています。
保存・廃棄の運用チェックリスト
- 院内の文書管理規程に、記録の種類ごとの保存期間と起算点が書かれている
- 「完結の日」の判定方法(最終受診日など)を決めている
- 病院の場合、診療に関する諸記録(看護記録・検査所見記録・エックス線写真等)を2年分以上備えている
- 5年経過後の扱い(延長保存するか、いつ廃棄するか)を決めている
- 廃棄は確実な方法で行い、記録を残している
- 電子保存で真正性・見読性・保存性を満たしていることをベンダーに確認している
- 外部保存・クラウド利用の契約に、保存期間と終了時の破棄・返却の手順が書かれている
- スキャン後の紙の扱い(正本として残すか)を決めている
まとめ
- カルテ(診療録)の保存期間は医師法第24条で5年間。保険医療機関は療養担当規則第9条で完結の日から5年間
- 診療録以外の保険診療に関する記録は完結の日から3年間(療養担当規則第9条)
- 病院は看護記録・検査所見記録・エックス線写真・処方せん等の診療に関する諸記録を過去2年間分備える(医療法施行規則第20条第10号)
- 法定期間は最低限。損害賠償の時効や個人情報保護を踏まえ、院内規程で保存期間と廃棄ルールを決める
- 電子保存は真正性・見読性・保存性が前提。具体策はガイドライン(現行第7.0版)で確認する
関連記事として、医療情報システムの安全管理に関するガイドラインとは、医療機関のバックアップ設計、ログ管理と監査証跡、OCRとは? もあわせてご覧ください。
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よくある質問
- Q. カルテの保存期間は何年ですか?
- A. 医師法第24条第2項で5年間と定められています。保険医療機関では、療養担当規則第9条でも診療録は完結の日から5年間保存することとされています。
- Q. 看護記録の保存期間は何年ですか?
- A. 病院では、医療法施行規則第20条第10号で看護記録を含む「診療に関する諸記録」を過去2年間分備えることとされています。保険医療機関では、療養担当規則第9条で療養の給付の担当に関する記録を完結の日から3年間保存することとされており、看護記録の扱いは自院の規程で明確にしておくことをおすすめします。
- Q. 保存期間はいつから数えますか?
- A. 療養担当規則第9条は「完結の日から」と定めています。医師法第24条には起算点の明文がありません。保険医療機関では、療養担当規則に合わせて診療が完結した日を起点に管理するのが実務的です。
- Q. 5年を過ぎたカルテはすぐに廃棄してよいですか?
- A. 法令上の保存義務は5年ですが、医療事故などの損害賠償請求権は、民法上、損害及び加害者を知った時から5年、不法行為の時から20年などの時効期間が定められています。廃棄の時期は、こうした点を踏まえて医療機関ごとに判断する必要があります。
- Q. 電子カルテで保存する場合の要件は何ですか?
- A. 真正性(改ざん・消去の有無が確認でき、作成責任が明確)、見読性(必要時に直ちに表示・印刷できる)、保存性(保存期間中に復元可能な状態で保存)の三条件を満たす必要があります。具体的な対策は厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に示されています。
- Q. 紙カルテをスキャンしたら紙は廃棄できますか?
- A. 厚生労働省令でスキャナで読み取った電磁的記録による保存は認められています。ただし、ガイドラインの要件を満たした電子化が前提で、ガイドラインは元の紙媒体も保存することが真正性・保存性確保の観点から極めて有効としています。紙を残す場合、電子化した情報は参照情報の扱いになります。