形成外科クリニックの電子カルテ選びが難しいのは、外来診療と手術が同じ日の中で混在するからです。
一般的な電子カルテは「診察→処方→会計」という流れを前提に作られています。しかし形成外科では、診察の合間に日帰り手術が入り、手術のたびに写真を撮り、病理を出し、結果が返ってきたら患者を呼び戻す——という別の流れが並走します。
なお本記事は保険診療を主とする形成外科を対象としています。自由診療中心の美容医療については 美容皮膚科・自由診療クリニックのシステム構成 をご覧ください。
免責:本記事は一般的な情報提供です。算定要件は改定され得ます。個別の判断にあたっては最新の一次情報をご確認ください。
確認すべき6つのポイント
① 写真の経時管理
形成外科において、写真は所見の記録そのものです。文章では表現しきれない情報を持ちます。
確認すべきは次の点です。
- 写真が患者・部位・撮影日に紐づいて保管されるか
- 同一部位の過去の写真と並べて比較できるか
- 術前・術中・術後という区分を持てるか
- 診察室のカメラやタブレットから直接取り込めるか
- 撮影枚数が増えても目的の1枚に辿り着けるか
創傷の治癒過程、瘢痕の経過、腫瘍の増大——いずれも並べて初めて判断できる種類の情報です。ファイルサーバーに日付フォルダで置く運用では、比較のたびに探す手間が発生します。
写真管理の考え方は皮膚科と共通する部分があり、皮膚科クリニックの電子カルテ でも扱っています。
② 日帰り手術の枠管理
形成外科の外来では、手術枠と診察枠を同時に管理する必要があります。
- 手術室(処置室)の空き枠
- 術者の割り当て
- 術式ごとの所要時間の違い(陥入爪と皮膚腫瘍摘出では大きく異なる)
- 前後の準備・片付けの時間
- 介助スタッフの配置
一般的な予約システムは「医師の時間」を単位にしていますが、形成外科では部屋・術者・スタッフ・時間の4つが同時に埋まって初めて手術枠が成立します。
さらに、手術の予約は診察から日を空けて入るのが通常です。「今日診察して、来週手術」という流れを、同じ患者の中で管理できるかを確認しておくとよいでしょう。
③ 手術記録のテンプレート
日帰り手術では、同じ術式を繰り返し行います。陥入爪の手術、粉瘤の摘出、皮膚腫瘍の切除——術式ごとに記録すべき項目はほぼ決まっています。
- 術式ごとの記録テンプレートを持てるか
- 部位・大きさ・深さなど算定に関わる項目が漏れなく記録されるか
- 使用した材料・縫合糸を記録できるか
- テンプレートを自院で編集できるか
とくに算定に関わる項目の記録漏れは、そのまま収益に影響します。皮膚・皮下腫瘍の摘出術などは部位と大きさで点数が変わるため、記録の段階でそれらが確実に残る設計かどうかが効いてきます。
④ 病理検査のフォロー
皮膚腫瘍を扱う以上、病理検査とその結果管理は避けて通れません。
- 検体を提出した患者が一覧で把握できるか
- 結果が返ってきていない検体を抽出できるか
- 結果がカルテに紐づいて保管されるか
- 結果説明のための再診予約と連動するか
「出したまま結果を確認していない」を構造的に防げるかが、この項目の本質です。悪性の結果が返ってきたときに患者へ確実に連絡が届く仕組みは、リスク管理そのものです。
⑤ 同意書と説明の記録
手術を行う以上、説明と同意の記録が必要になります。
- 術式ごとの同意書のひな形を持てるか
- 署名済みの同意書が患者・手術に紐づいて保管されるか
- タブレットでの電子的な取得に対応するか
- 説明した内容が診療記録に残るか
紙で取得してスキャンする運用でも成立しますが、手術のたびに発生する作業なので、件数が増えるほど差が出ます。
⑥ 保険と自費の併存
形成外科では、保険診療と自費診療が同じ患者に発生することがあります。瘢痕の治療は保険でも、追加の処置は自費、といった形です。
- 同じ日の会計を保険分と自費分に分けて処理できるか
- 領収書・明細書がそれぞれ適切に発行できるか
- 自費のメニューと価格をマスタで管理できるか
レセコンは保険診療を前提に作られているため、自費が絡むと別の仕組みが必要になりがちです。この構造的な問題は クリニックの会計機能にイノベーションが必要な理由 で扱っています。
選定チェックリスト
| 区分 | 確認項目 |
|---|---|
| 写真 | 患者・部位・日付への紐づけ/過去との並列比較/術前後の区分/直接取り込み |
| 手術枠 | 部屋・術者・スタッフ・時間の同時管理/術式別の所要時間/診察との連動 |
| 手術記録 | 術式別テンプレート/算定項目の網羅/自院での編集 |
| 病理 | 提出一覧/未返却の抽出/結果の紐づけ/再診予約との連動 |
| 同意書 | 術式別ひな形/電子的取得/患者・手術への紐づけ |
| 会計 | 保険と自費の分離/書類の適切な発行/自費メニューのマスタ |
「診察中心」の電子カルテとのズレ
形成外科で電子カルテが合わないと感じられる場面の多くは、製品が診察を中心に設計されていることに起因します。
診察中心の設計では、1回の受診が1つの記録単位になります。しかし形成外科では、手術という単位が別に存在し、そこに写真・記録・同意書・病理・会計がぶら下がります。
選定時には、「手術を1つの単位として扱えるか」という視点で確認すると、製品ごとの差が見えやすくなります。
AIネイティブという選択肢
形成外科でAIが効くのは、次の点です。
- 手術記録の音声入力:術後すぐに口述し、構造化された記録にする
- 書類の下書き生成:紹介状、診断書、手術報告
- 対象患者の抽出:病理結果が未確認の患者、術後フォローが途切れている患者
- 算定チェック:手術記録と算定内容の対応を確認する
- 検索:「この術式を過去にどれだけ行ったか」に答える
とくに手術記録の作成は、術後に手が空いたタイミングでまとめて行われがちです。口述から構造化できると、その場で完結させられます。音声入力の仕組みは 音声書き起こし(音声認識)とは何か で解説しています。
まとめ
- 形成外科は外来と手術が同じ日に混在する科で、診察中心の設計とズレが生じやすい
- 写真は所見そのものであり、患者・部位・日付に紐づいて並列比較できることが要件になる
- 手術枠は部屋・術者・スタッフ・時間の4つが同時に埋まって成立する
- 術式別の記録テンプレートがあると、算定に関わる項目の記録漏れを防げる
- 病理は**「出したまま確認していない」を構造的に防げるか**が本質
- 保険と自費が同じ患者に併存するため、会計の分離が必要になる
- 製品を見るときは「手術を1つの単位として扱えるか」を軸にすると差が見えやすい
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