糖尿病・内分泌の診療は、他の外来診療とは記録の性質が違います。その日の所見よりも、検査値がどう推移してきたかが診療の中身だからです。10年単位で通院する患者も珍しくなく、蓄積されたデータをどう扱えるかが診療の質を左右します。
加えて、管理栄養士や看護師との多職種連携、デバイスから得られる血糖データ、そして合併症スクリーニングの管理——これらが糖尿病クリニック特有の要件を作ります。
免責:本記事は一般的な情報提供です。算定要件・施設基準は改定され得ます。実務では必ず最新の一次情報(厚生労働省・地方厚生局等)をご確認ください。
内科クリニック全般の電子カルテ選定は 内科クリニックの電子カルテ比較|生活習慣病管理料に強い製品の選び方 で扱っています。
要件1:検査値の時系列表示——これが診療の中心
糖尿病診療で最も使う画面は、検査値の推移を見る画面です。ここの使い勝手が診療効率を直接左右します。
確認すべきポイントは次のとおりです。
- 複数項目を重ねて表示できるか:HbA1cと体重、血糖と薬剤変更のタイミングを同じ軸で見たい
- 期間を柔軟に切り替えられるか:直近1年と全期間を行き来できるか
- 処方の変更履歴が重ねられるか:いつ薬を変えて、その後どう動いたかが一目でわかるか
- 患者に見せられる形か:画面をそのまま患者説明に使えると、指導の説得力が上がる
一覧表形式でしか見られない製品では、経過の把握に時間がかかります。グラフとして直感的に読めることが実務上は重要です。
要件2:デバイスデータの連携
血糖管理では、院内の検査値だけでなく患者自身が測定したデータが重要になります。
- SMBG(血糖自己測定):測定器やアプリからのデータ取り込み
- CGM/FGM(持続血糖モニタリング):日内変動のパターン、目標範囲内時間などの指標
- インスリンポンプ:注入履歴との突合
- 体重計・血圧計・活動量計:生活習慣の側面
これらのデータが紙のノートや患者のスマートフォン画面でしか見られない状態だと、診察時間の多くが確認作業に費やされます。データが電子的に取り込まれ、院内の検査値と同じ画面で見られるかを確認します。
取り込み方式(メーカー専用ソフト経由か、標準的な連携か)と、取り込んだデータがカルテに保存されるのか、参照のみかも確認しておくべき点です。参照のみの場合、外部サービスが終了すると過去データが失われます。
要件3:生活習慣病管理料と療養計画書
2024年の改定により、糖尿病・高血圧・脂質異常症の管理は生活習慣病管理料が中心となる形に移行しました。この算定には療養計画書の作成と患者の同意が必要になります。
システムで確認すべきは次の点です。
- 療養計画書をカルテの情報から自動生成できるか
- 検査値や処方内容が計画書に反映されるか
- 患者ごとの作成・同意取得の状況を管理できるか
- 更新時期が来た患者を抽出できるか
計画書を毎回手作業で作成していると、算定できる要件を満たしていても運用が回らず、結果的に算定を諦めることになりかねません。
制度の詳細は 2024年改定で何が変わった?特定疾患療養管理料から生活習慣病管理料へのシフト対応、自動作成の考え方は 療養計画書をカルテから自動作成|生活習慣病管理料(II)の業務効率化 で扱っています。
要件4:多職種の記録共有
糖尿病診療はチームで行います。医師だけでなく、管理栄養士による栄養食事指導、看護師による療養指導、薬剤師による服薬指導が関わります。
- 職種ごとの記録テンプレート:栄養指導記録、療養指導記録
- 記録の相互参照:医師が栄養指導の内容を見られる、栄養士が処方変更を把握できる
- 指導の算定管理:外来栄養食事指導料、糖尿病透析予防指導管理料などの算定要件と実施記録の対応
- 指導予定の管理:次回の指導予約と実施状況
多職種の記録が別ファイルや紙で管理されていると、チームで見ているはずの患者像が分断されます。同じ画面で経過を共有できることが、チーム医療の前提になります。
要件5:合併症スクリーニングの管理
糖尿病診療では、定期的に確認すべき項目が決まっています。ここに抜けが生じるリスクがあります。
| 領域 | 主な確認項目 | 頻度の考え方 |
|---|---|---|
| 網膜症 | 眼科での眼底検査 | 定期的に眼科へ紹介 |
| 腎症 | 尿アルブミン、eGFR | 定期評価 |
| 神経障害 | 自覚症状、腱反射、振動覚 | 定期評価 |
| 足病変 | フットケア、足の観察 | 定期評価 |
| 大血管合併症 | 血圧、脂質、心血管リスク | 継続管理 |
システムに求められるのは、「この患者は何をいつ実施したか」「次はいつか」が一覧でわかることです。とくに眼科への紹介は他院で行われるため、紹介したことと結果が返ってきたことの両方を追跡できる必要があります。
未実施の患者を抽出できれば、受診時に声をかける運用が成立します。この抽出ができないと、個々の医師の記憶に依存することになります。
要件6:他院・他職種との連携
- 眼科への紹介と結果の受領:紹介状の作成と、返書の管理
- 透析予防の連携:腎症進行例の専門医連携
- 薬局との連携:電子処方箋、服薬情報の共有
- 健診・特定保健指導との接続:健診で発見された患者の受け入れ
電子処方箋の導入状況は 電子処方箋とは?クリニック導入のメリット・費用・進め方 で扱っています。
要件7:患者への情報提供
糖尿病は患者自身の生活管理が治療の中心にあるため、患者側に情報が届くことが治療効果に影響します。
- 検査値の推移を患者が自分で確認できるか(患者アプリ、PHR)
- 指導内容や目標が患者の手元に残るか
- 次回予約や検査の案内が届くか
これらは電子カルテ単体ではなく、患者向けの仕組みとの組み合わせで実現されます。
選定時のチェックリスト
| 区分 | 確認項目 |
|---|---|
| 検査値表示 | 複数項目の重ね合わせ/期間の切り替え/処方履歴との重ね/患者提示のしやすさ |
| デバイス連携 | SMBG・CGMの取り込み方式/保存か参照か/標準的な連携か |
| 算定 | 療養計画書の自動生成/同意取得状況の管理/更新時期の抽出 |
| 多職種 | 職種別テンプレート/記録の相互参照/指導料の算定管理 |
| 合併症 | 実施状況の一覧/未実施者の抽出/眼科紹介と返書の追跡 |
| 連携 | 紹介状作成/電子処方箋/健診からの受け入れ |
| 患者向け | 検査値の共有/指導内容の提供/予約案内 |
AIネイティブという選択肢
AIを前提に設計された電子カルテは、糖尿病・内分泌診療で次の点が効いてきます。
- 指導内容の音声入力:栄養指導や療養指導の記録を口述で構造化する
- 療養計画書の下書き生成:検査値・処方・指導内容から計画書の文案を作る
- 経過の要約:長期通院患者の推移を短時間で把握する
- 対象者の抽出:合併症スクリーニング未実施者、計画書の更新時期が来た患者を自動でリスト化する
- 算定チェック:指導料等の算定要件と実施記録の対応を確認する
長期継続管理の診療科ほど、蓄積されたデータをAIが整理してくれることの効果が大きくなります。
AIネイティブ電子カルテの定義は AIネイティブ電子カルテとはどんなものなのか? で解説しています。
まとめ
- 糖尿病診療は検査値の時系列そのものが診療の中身。グラフ表示の使い勝手が診療効率を直接左右する
- SMBG・CGMのデバイスデータが院内検査値と同じ画面で見られるか。保存か参照かも確認する
- 生活習慣病管理料には療養計画書が必要。手作業では運用が回らず算定を諦めることになりかねない
- 多職種の記録が分断されると、チームで見ているはずの患者像が割れる
- 合併症スクリーニングの抜けが最大の管理リスク。未実施者を抽出できるかが分かれ目
- 眼科紹介は紹介と返書の両方を追跡する必要がある
- 長期継続管理の科ほど、蓄積データをAIが整理する効果が大きい
AIカルテの詳細やデモをご希望の場合は お問い合わせ からご連絡ください。
