電子カルテの費用を検討するとき、比較の中心になるのは初期費用と月額です。しかし実際に負担として効いてくるのは、導入後に毎年かかる保守費用と、数年ごとに発生する更新(更改)費用です。
「月額は安かったが、5年目のサーバー更改で数百万円かかった」——後から気づく類の費用がここに集中しています。
本記事では、保守費用と更新費用の中身、クラウドとオンプレミスでの意味の違い、そして見積書で何を分けて確認すべきかを整理します。導入費用を含めた全体像は 電子カルテの費用相場まとめ をご覧ください。
免責:本記事は一般的な情報提供です。具体的な金額は製品・構成・診療科・規模によって大きく変わるため、断定的な相場額は扱いません。必ず複数社から見積もりを取得してください。
「保守費用」は何に対する費用か——4つの中身
保守費用は一つの費目に見えますが、実際には性質の違う4つが束ねられています。契約書でどこまで含まれるかは製品ごとに違います。
| 中身 | 内容 | 確認すべき点 |
|---|---|---|
| ① 障害対応 | 動かなくなったときの復旧 | 対応時間帯、駆けつけの有無、応答時間の目安 |
| ② 問い合わせ対応 | 操作方法、設定変更の相談 | 回数制限の有無、電話/メール/訪問の別 |
| ③ アップデート | 機能追加、不具合修正 | 含まれるか、別料金か |
| ④ 制度改定対応 | 診療報酬改定、法令改正への追随 | 改定年に別料金が発生しないか |
**④が最も金額の差が出る項目です。**診療報酬改定は2年ごと(診療報酬改定DX により施行時期が6月へ移行)にあり、マスタと算定ロジックの更新が必要になります。ここが保守費に含まれているか、改定年ごとに別途請求されるかで、数年の総額が変わります。
クラウドとオンプレミスで「保守費」の意味が違う
同じ「保守費用」という言葉が、両者で指すものが違う点に注意が必要です。
| クラウド型 | オンプレミス型 | |
|---|---|---|
| 保守費の位置づけ | 月額に含まれることが多い | 別建ての保守契約として発生 |
| 含まれやすいもの | アップデート、サーバー運用、バックアップ | ソフトの障害対応、問い合わせ |
| 別料金になりやすいもの | 端末追加、オプション機能 | サーバー機器の保守、OS更新、ハードウェア故障 |
| 数年後の更新費 | 生じにくい | ハードウェア更改費が発生する |
**オンプレミスでは「ソフトの保守」と「ハードの保守」が別契約になっていることがあります。**片方だけを見て「保守費はこの金額」と理解すると、実際の負担を見誤ります。
クラウドとオンプレミスの全体比較は クラウド型 vs オンプレミス型 電子カルテ徹底比較 をご覧ください。
更新(更改)費用とは何か
オンプレミス型で数年ごとに発生するのが更新費用です。内訳は主に次の3つです。
① ハードウェアの更改 院内サーバーやクライアント端末には耐用年数があります。メーカーの保守期限を過ぎると、故障時の部品供給が止まります。
② OS・ミドルウェアのサポート終了対応 サーバーOSやデータベースにはサポート期限があります。期限切れの環境を使い続けることは、3省2ガイドライン の観点でも問題になります。
③ ソフトウェアのバージョンアップ 古いバージョンのサポートが終了し、新バージョンへの移行が必要になる場合があります。このとき、実質的に再導入に近い作業とデータ移行が発生することがあります。
更新のサイクルは一般に5年前後が目安とされますが、機器構成や保守方針によって変わります。重要なのは、その周期と概算を導入時点で確認しておくことです。
見積書で分けて確認すべき項目
「月額◯円」「保守費 年◯円」という表示だけでは判断できません。次の粒度で分解して聞くのが実務的です。
| 費目 | 聞き方 |
|---|---|
| 月額/年額の基本料 | 何が含まれるか。端末数・利用者数で変わるか |
| 端末追加の単価 | 1台増やすといくらか |
| オプション機能 | 予約、Web問診、画像連携、AI機能などの追加料金 |
| 制度改定対応 | 改定年に別料金が発生するか |
| 障害対応 | 時間帯、訪問の有無、時間外は別料金か |
| 問い合わせ | 回数制限、時間外の扱い |
| バックアップ・データ保管 | 含まれるか。保管期間はどれだけか |
| ハードウェア保守(オンプレ) | 何年間か、延長できるか、期限後はどうなるか |
| 更改費用(オンプレ) | 想定周期と概算 |
| データ移行・返却(解約時) | 費用と形式 |
**最後の項目は解約時にしか発生しませんが、導入時に確認すべきです。**解約が決まってから聞くと、交渉の余地がありません。詳しくは 電子カルテのベンダーロックインをどう避けるか をご覧ください。
保守費が上がりやすい/別料金になりやすい場面
実際に「聞いていた金額と違う」となりやすいのは、次の場面です。
① 端末を増やしたとき 分院展開、スタッフ増員、診察室追加。ライセンス体系が端末数・ユーザー数連動なら、増員のたびに月額が上がります。
② 診療報酬改定の年 改定対応が保守費に含まれない契約では、改定のたびに費用が発生します。
③ オプションを後から足したとき 導入時に「まずは基本機能で」と絞ると、後から追加するオプションが積み上がります。3年後の構成を想定して初期見積もりを取るのが実務的です。
④ サポート形態を上げたとき 電話のみ→訪問あり、平日のみ→時間外対応。運用が始まってから必要性に気づくことが多い領域です。
⑤ データ量が増えたとき 画像を多く扱う診療科では、保管容量に応じた課金が効いてくる場合があります。
5年総額(TCO)で比較する
保守費と更新費を含めて比較するには、5年間の総額で並べるのが実務的です。
5年総額 = 初期費用
+ 月額 × 60か月
+ 保守費 × 5年(月額に含まれない場合)
+ 改定対応費 × 改定回数(含まれない場合)
+ オプション追加分
+ 更改費用(オンプレの場合、5年目に発生する想定額)
+ 端末増加分(見込み)
**この式で並べると、初期費用と月額だけの比較とは順位が変わることがあります。**特にオンプレミス型は5年目の更改費が乗るため、5年より長い期間で見るとさらに差が開きます。
補助金が使える場合は初期費用の負担を下げられますが、**保守費・更新費は原則として自院の負担が続きます。**制度は年度ごとに変わるため、最新の公募要領を確認してください(電子カルテに使える補助金2026)。
契約書で見ておく条項
金額表だけでなく、契約条項にも確認すべき点があります。
- 値上げ条項:保守費の改定条件、通知期間
- サポート終了:現行バージョンのサポート期限、終了時の選択肢
- 契約期間と解約:最低利用期間、中途解約時の違約金
- データの返却:解約時に何を、どの形式で、いつまでに受け取れるか
- 責任分界:障害時にどこまでがベンダーの責任か(AI電子カルテのセキュリティ設計と責任分界)
ベンダーへの質問リスト
そのまま商談で使える形にまとめます。
- 保守費用に、診療報酬改定への対応は含まれますか。改定年に別料金は発生しますか
- 保守費用に、アップデートは含まれますか
- 障害時の対応は何時から何時までですか。時間外は別料金ですか。訪問対応はありますか
- 問い合わせに回数制限はありますか
- 端末を1台追加すると、月額はいくら増えますか
- (オンプレの場合)ハードウェア保守は何年間ですか。期限後はどうなりますか
- (オンプレの場合)更改の想定周期と概算額を教えてください
- バックアップとデータ保管は含まれますか。保管期間は何年ですか
- 保守費用の値上げ条件は契約書のどこに書かれていますか
- 解約時、データを受け取る費用と形式を教えてください
1番と7番を最初に聞くと、その後の議論が具体的になります。
まとめ
- 保守費用は①障害対応 ②問い合わせ ③アップデート ④制度改定対応の4つが束ねられたもの。契約ごとに含まれる範囲が違う
- 最も金額差が出るのは改定対応が含まれるかどうか
- クラウドとオンプレミスで**「保守費」が指すものが違う**。オンプレはソフトとハードで契約が分かれていることがある
- 更新(更改)費用はオンプレ特有で、目安は5年前後。ハードウェア・OS・ソフトのバージョンアップが重なる
- 上振れしやすいのは端末追加・改定年・後付けオプション・サポート形態の変更・データ量増加
- 比較は**5年総額(TCO)**で並べる。初期費用と月額だけの比較とは順位が変わることがある
- 契約書では値上げ条項・サポート終了・解約時のデータ返却を確認する
- 質問は**「改定対応は含まれるか」と「更改の周期と概算は」**から始めると具体的になる
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