「訪問看護 電子カルテ」で調べると、医科の訪問診療向け電子カルテが多く出てきます。しかし訪問看護ステーションに必要なものは、医師が使う訪問診療用カルテとはかなり違います。
違いの根っこにあるのは制度の構造です。訪問看護は医療保険と介護保険の二本立てで動き、医師の指示書を前提とし、計画書と報告書を主治医に提出し、請求先が分かれます。この構造を吸収できないシステムでは、記録は取れても実務が回りません。
本記事では、訪問看護ステーションが記録・請求システムを選ぶときの観点を整理します。
免責:本記事は一般的な情報提供です。制度・様式・請求の取扱いは改定されます。実際の運用判断は、厚生労働省および審査支払機関の最新の公表資料、および所管の指導内容に基づいて行ってください。
医科の訪問診療用カルテとの違い
まず、なぜそのまま流用できないのかを整理します。
| 観点 | 医科の訪問診療 | 訪問看護ステーション |
|---|---|---|
| 記録の主体 | 医師の診療録 | 看護記録(診療録ではない) |
| 保険の枠組み | 医療保険 | 医療保険と介護保険の二本立て |
| 開始の根拠 | 医師の判断 | 医師の訪問看護指示書 |
| 定期の提出物 | 診療情報提供書など | 訪問看護計画書・報告書(主治医へ) |
| 請求先 | 支払基金・国保連(医療) | 医療保険と介護保険で分かれる |
| 主な連携先 | 訪問看護、薬局、ケアマネ | 主治医、ケアマネ、他事業所、家族 |
最大の違いは「医療保険か介護保険か」の判定が日常業務に組み込まれている点です。医科の訪問診療にはこの判定がありません。ここを人の頭の中でやっている限り、請求の誤りは減りません。
医科側の要件は 訪問診療の電子カルテ|失敗しない選び方 をご覧ください。
制度の構造——どこで判定が発生するか
訪問看護の請求は、利用者ごとに医療保険と介護保険のどちらを使うかが決まる構造になっています。判定に関わる主な要素は次のとおりです。
- 介護保険の要介護・要支援認定の有無
- 主治医の指示の内容(特別訪問看護指示書が出ている期間は医療保険に切り替わります)
- 対象となる疾病(厚生労働大臣が定める疾病等に該当する場合は医療保険)
- 精神科訪問看護の該当性
**さらに、この判定は途中で切り替わります。**特別訪問看護指示書が交付されれば、その期間だけ医療保険に移ります。月の途中で切り替わることもあります。
システムに求められるのは、この切り替えを記録として持ち、請求時に自動で振り分けることです。ここが手作業だと、月末に必ず確認作業が発生します。
必要な要件——8項目
① 看護記録
- 訪問ごとの記録を、訪問先(自宅)で入力できるか
- 前回記録の参照、バイタルの経時比較ができるか
- 写真(褥瘡の経過など)を記録に紐づけられるか
- 複数の看護師が同一利用者を担当する場合の申し送りが残るか
② 指示書の管理
- 訪問看護指示書、特別訪問看護指示書、精神科訪問看護指示書を区別して管理できるか
- 有効期間を持ち、期限切れが近い利用者を一覧で出せるか
- 指示書の期間と、実際の訪問実績の整合を確認できるか
期限切れの指示書のまま訪問していたという事故は、実務で起きやすい類のものです。アラートが出る仕組みがあるかは確認する価値があります。
③ 計画書・報告書
- 訪問看護計画書・訪問看護報告書を、記録から起こせるか
- 主治医への提出状況を管理できるか
- 前月の内容を引き継いで作成できるか
毎月発生する定型業務であり、**ここが自動化されるかどうかで事務負担が変わります。**書類作成の自動化の考え方は 訪問計画書・指示書をAIが自動作成 も参考になります。
④ 保険の判定と請求
- 医療保険と介護保険の振り分けを、利用者ごと・期間ごとに保持できるか
- 月の途中で切り替わるケースに対応できるか
- 介護保険分の介護給付費請求、医療保険分の訪問看護療養費の請求データを、それぞれ出力できるか
- オンライン請求に対応しているか
訪問看護療養費のオンライン請求は順次開始されており、対応状況は事業所によって異なります。最新の取扱いと期限は、厚生労働省および審査支払機関の公表資料でご確認ください。
⑤ 加算の算定支援
訪問看護には多くの加算があり、算定漏れが収入に直結します。
- 緊急時の訪問、特別管理、24時間対応体制、複数名訪問、長時間訪問、ターミナルケアなど、該当しうる加算を訪問記録から判定・提示できるか
- 届出している体制と、実際の算定の整合を確認できるか
「算定できたのにしていない」を防ぐ仕組みがあるかは、比較の重要な観点です。算定漏れを防ぐ一般的な考え方は 算定漏れチェックリスト をご覧ください。
⑥ スケジュールと移動
- 看護師ごと・利用者ごとの訪問スケジュールを組めるか
- 訪問ルートを考慮した調整ができるか
- 急な変更、代行訪問への対応
- オンコール・24時間対応の当番管理と、緊急訪問の記録
スケジュール管理の考え方は 訪問スケジュール・ルート・同行管理を一元化する在宅医療のDX も参考になります。
⑦ モバイル運用とオフライン
- スマートフォン・タブレットで記録が完結するか
- 電波の届かない場所でのオフライン入力と後からの同期ができるか
- 端末を紛失した場合の対策(リモート消去、端末内にデータを残さない設計)
訪問先での入力ができないと、事業所に戻ってからの記録作業が残り、残業の主因になります。タブレット運用の実際は iPad・スマホで完結する訪問診療のカルテ運用 も参考になります。
⑧ 多職種連携
- 主治医への報告書提出、指示内容の確認
- ケアマネジャーとの情報共有(サービス提供票、実績報告)
- 他の訪問看護ステーション、薬局、ヘルパー事業所との連携
- 家族への連絡記録
連携の全体像は 訪問看護・薬局・ケアマネと繋がる|在宅医療の多職種連携システム で扱っています。
セキュリティ——訪問看護特有の論点
利用者宅に端末を持ち出す業務であるため、紛失・盗難を前提とした設計が必要です。
- 端末内に利用者情報を保存しない構成になっているか
- 紛失時にリモートで利用停止・消去できるか
- 通信は暗号化されているか
- 職員ごとのアカウントになっているか(共有アカウントは避ける)
医療情報を扱う以上、3省2ガイドライン の枠組みが適用されます。事業所の規模にかかわらず、アクセス権限とログの管理は必要です。クラウド利用時の前提は 医療機関のクラウドセキュリティ をご覧ください。
比較の観点表
製品を並べるときの軸として使えるようにまとめます。
| 観点 | 確認すること |
|---|---|
| 保険の判定 | 医療/介護の振り分けを自動化できるか。月途中の切り替えに対応するか |
| 請求 | 介護給付費請求と訪問看護療養費の両方に対応するか。オンライン請求は |
| 指示書 | 3種類を区別できるか。期限アラートはあるか |
| 計画書・報告書 | 記録から自動作成できるか。前月引き継ぎは |
| 加算 | 算定漏れを検知・提示できるか |
| モバイル | 訪問先で完結するか。オフライン入力は |
| スケジュール | ルート考慮、オンコール当番の管理 |
| 連携 | ケアマネ・主治医との情報共有の手段 |
| セキュリティ | 端末紛失対策、職員別アカウント、ログ |
| 費用 | 看護師数・利用者数で変動するか。5年総額は |
| データ移行 | 解約時に利用者データを受け取れるか。形式は |
費用の見方は 電子カルテの保守費用・更新費用の相場、データを持ち出せるかという観点は 電子カルテのベンダーロックインをどう避けるか が参考になります。
選定時の質問リスト
- 医療保険と介護保険の振り分けは自動ですか。月の途中で切り替わるケースに対応しますか
- 特別訪問看護指示書が出た期間の扱いはどうなりますか
- 介護給付費請求と訪問看護療養費の請求データを両方出力できますか。オンライン請求への対応状況は
- 指示書の期限切れアラートはありますか
- 訪問看護計画書・報告書は記録から自動作成できますか。前月内容を引き継げますか
- 算定できる加算の候補を提示する機能はありますか
- オフラインで記録を入力し、後から同期できますか
- 端末を紛失した場合、リモートで消去できますか
- ケアマネジャーとの情報共有はどのような方法ですか
- 費用は看護師数・利用者数で変わりますか。3年後に規模が倍になった場合はいくらですか
- 解約時、利用者データをどの形式で受け取れますか
**1番・3番・6番で差がつきます。**記録機能はどの製品も一定水準にありますが、保険判定・請求・加算は製品差が大きい領域です。
導入・切り替えのタイミング
訪問看護ステーションの場合、次のタイミングが候補になります。
- 年度の切り替え(4月):介護報酬・診療報酬の改定に合わせやすい
- 利用者数が増えて手作業の限界が来たとき:目安として、月末の請求作業に事務が丸2日以上かかるようになった段階
- オンライン請求への対応が必要になったとき
移行時は利用者情報・指示書の有効期間・進行中の計画書を引き継げるかが論点です。データ移行の実務は 電子カルテのデータ移行 の考え方が参考になります。
まとめ
- 訪問看護に必要なものは医科の訪問診療用カルテとは違う。記録の主体、保険の枠組み、提出物、請求先がすべて異なる
- 根本にあるのは医療保険と介護保険の二本立て。この判定が日常業務に組み込まれている
- 特別訪問看護指示書などで保険が途中で切り替わるため、システムが期間を保持して自動振り分けできるかが最重要
- 要件は①看護記録 ②指示書管理 ③計画書・報告書 ④保険判定と請求 ⑤加算の算定支援 ⑥スケジュール ⑦モバイル・オフライン ⑧多職種連携の8項目
- 訪問看護特有のセキュリティ論点は端末の持ち出し。紛失前提の設計と職員別アカウントが必要
- 製品差が大きいのは保険判定・請求・加算。記録機能はどれも一定水準にある
- 移行時は利用者情報・指示書の有効期間・進行中の計画書を引き継げるかを確認する
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