美容クリニックの電子カルテを比較しようとすると、最初に戸惑うのが**「そもそも同じ種類の製品を比べていない」**という点です。
保険診療用の電子カルテ、美容医療に特化したシステム、エステサロン向けの顧客管理システム——この3系統が「美容クリニック向け」として並びます。設計思想が違うため、機能表を横に並べても判断できません。
本記事では、3系統の違いを整理したうえで、美容皮膚科・美容外科が実際に判断材料にすべき7要件を示します。
免責:本記事は一般的な情報提供です。製品仕様や対応状況は変わり得ます。導入検討時は各ベンダーの最新情報をご確認ください。医療広告に関する記載は一般的な整理であり、個別の判断は最新のガイドラインおよび専門家の確認のもとで行ってください。
「美容クリニック向け」は3系統に分かれる
| 系統 | 出自 | 強い領域 | 弱い領域 |
|---|---|---|---|
| ① 保険診療用の電子カルテ | 診療報酬点数表 | 診療録としての完成度、レセプト、保険併用 | メニュー管理・顧客管理・写真・コース販売 |
| ② 美容医療特化システム | 美容クリニックの業務 | メニュー、写真、同意書、コース、指名予約 | 保険診療、製品数が少なく比較しにくい |
| ③ サロン系顧客管理(CRM) | エステ・サロン | 顧客管理、リピート施策、予約、決済 | 診療録としての要件、医療広告・医師法まわりの前提 |
**判断の起点は「保険診療を行うかどうか」**です。
- 保険診療を一切行わない → ②が本命。①はレセコン部分の費用が無駄になる
- 保険診療を併設する(保険皮膚科+美容皮膚科など) → ①をベースに、自費機能で補える製品を選ぶ
- ③は単体では成立しにくい。 診療録としての要件を満たさないため、カルテは別に必要になります
自由診療全般の選び方は 自由診療・自費診療の電子カルテの選び方、業務フロー全体の設計は 美容皮膚科・自由診療クリニックのシステム構成 をご覧ください。
見るべき7つの要件
① メニュー(施術)マスタ
美容クリニックの管理単位は傷病名ではなく施術メニューです。
- 施術ごとに価格・所要時間・担当できるスタッフ・使用機器・消耗品を紐づけられるか
- 部位別・回数別の価格設定ができるか(「両ワキ 5回」のような単位)
- キャンペーン価格、モニター価格を、通常価格と区別して記録できるか
- 価格改定の履歴が残るか
**消耗品の紐づけは見落とされがちですが重要です。**注入剤やレーザーのチップなど、施術ごとに消費するものを記録できないと、原価と在庫が見えなくなります。
② Before / After 写真
美容医療の記録の中核です。
- 患者・施術・日付・部位に紐づけて保存できるか
- 撮影条件を揃える運用を支援できるか(前回写真をガイド表示できると精度が上がります)
- 患者への提示(比較表示)ができるか
- 広告利用の同意可否を写真単位で管理できるか
最後の項目は医療広告ガイドラインとの関係で意味を持ちます。同意の範囲を写真ごとに持てないと、広告利用のたびに人手で確認することになります。
③ 同意書・カウンセリング記録
- 施術ごとの同意書テンプレートを持てるか
- 署名済みの現物を患者に紐づけて保管できるか(タブレット署名を含む)
- カウンセリングで説明した内容、患者の希望・不安、提示した金額を記録できるか
トラブル時に決定的な意味を持つのはこの領域です。「説明した」ことを後から示せるかどうかが分かれ目になります。
④ 予約——担当者 × 機器 × 部屋
美容クリニックの予約は3軸です。医師が空いていても、レーザー機器が埋まっていれば施術できません。
- 担当者・機器・部屋を同時に押さえられるか
- 施術ごとに必要な所要時間・準備時間・機器を自動で反映できるか
- 指名予約とその実績(指名率)が取れるか
- 連続する複数施術を1枠にまとめられるか
⑤ コース・回数券(前受金)
- 販売と消化を分けて記録できるか
- 残回数・有効期限が患者ごと・コースごとに見えるか
- 中途解約時の精算計算に対応できるか
- 未消化残高を月次で集計できるか
**金額が大きく、管理を誤ると事故になる領域です。**会計上の考え方は 回数券・コース契約の会計処理 をご覧ください。美容医療では特定商取引法の対象になる場合がある点にも注意が必要です。
⑥ 決済・分割・医療ローン
- クレジットカード、電子マネー、QR決済に対応できるか(クリニックのキャッシュレス決済)
- 医療ローン・分割払いの申込と支払状況を記録できるか
- 高額決済の分割入金を、売上と紐づけて追えるか
⑦ 顧客管理とリピート
美容医療は再来を促さなければ来院しません。ここが売上に直結します。
- 最終来院日、累計利用額、施術履歴が1画面で見えるか
- 未再来の患者を条件で抽出できるか(「3か月来ていない」「特定施術を受けた」など)
- 次回提案の記録が残るか
- 施術後のフォロー連絡を管理できるか
美容外科(手術)で追加になる要件
美容皮膚科と美容外科では、必要なものが一段変わります。
- 手術枠の管理:手術室、麻酔、所要時間、術後観察の枠
- 術前検査の結果管理
- 術後経過のフォロー:抜糸、経過観察、修正対応のスケジュール
- 麻酔記録
- 使用インプラント・材料のロット管理
保険診療の形成外科と要件が重なる部分もあるため、形成外科クリニックの電子カルテ も参考になります。
経営の数字をどう見るか
美容クリニックの経営は、保険診療とは見るべき指標が違います。システム選定でも、これらが取れるかを確認する価値があります。
| 指標 | なぜ見るか |
|---|---|
| 客単価 | 保険診療と違い、自院の設計で動かせる |
| リピート率・再来間隔 | 新規獲得コストが高いため、再来が収益を決める |
| 指名率 | スタッフの育成と定着、価格戦略に影響する |
| 機器の稼働率 | 高額機器の投資回収を判断する材料 |
| メニュー別の粗利 | 売上構成ではなく利益構成で見る |
| コース未消化残高 | 前受金であり、将来の役務提供義務 |
**「メニュー別の粗利」を出せるかが分かれ目です。**売上構成だけを見ていると、単価は高いが消耗品費と所要時間を考えると採算が悪いメニュー、という状態を見逃します。
経営指標の一般的な考え方は クリニック経営のKPI、自費比率が上がったときに会計機能へ何が求められるかは クリニックの会計機能にイノベーションが必要な理由 をご覧ください。
保険診療を併設する場合の注意点
保険皮膚科と美容皮膚科を併設する形は多く見られますが、会計の分離が最大の論点になります。
- 同日に保険診療と自費施術を行ったとき、別会計・別領収書にできるか
- 保険分だけがレセプトに乗る構造か
- 混合診療の原則禁止に抵触しない運用になっているか
制度上の線引きは 保険診療と自由診療の会計を分ける実務 で詳しく扱っています。ここを誤ると返還の対象になり得るため、運用ルールとシステムの両方で担保する必要があります。
医療広告ガイドラインとの関係
美容医療は医療広告の規制が実務に直結します。システムの観点では次の2点が関わります。
- 写真の広告利用同意を、写真単位・患者単位で管理できるか
- 症例掲載に必要な情報(施術内容、費用、主なリスク・副作用)を、記録から正確に引ける状態か
「掲載できる素材かどうか」を人の記憶で管理している状態は、リスクとして残ります。
比較の進め方——デモで確認すること
機能一覧ではなく、自院の実際の1日を再現してもらうのが最も確実です。
- 新規カウンセリングから見積提示・コース契約・初回施術・会計までを通しで操作してもらう
- 2回目来院で、残回数の確認と消化、写真の比較表示までを見る
- 中途解約の精算を実際に操作してもらう
- 月末に、メニュー別の粗利と未消化残高を出してもらう
- (併設する場合)同日に保険診療と自費を行ったときの会計を見る
**3番と4番でつまずく製品は少なくありません。**日常業務は回っても、締めと精算で表計算に落ちるなら、二重管理は解消されません。
まとめ
- 「美容クリニック向け」は保険カルテ/美容特化/サロン系CRMの3系統。設計思想が違うため機能表の横並び比較は成立しない
- 起点は保険診療を行うかどうか。行わないなら美容特化型、併設するなら保険カルテをベースに選ぶ
- 見るべきは①メニューマスタ ②Before/After写真 ③同意書 ④3軸予約 ⑤コース・回数券 ⑥決済と医療ローン ⑦顧客管理の7要件
- 美容外科では手術枠・術前検査・術後フォロー・麻酔記録・材料ロットが追加される
- 経営ではメニュー別の粗利とコース未消化残高が取れるかが分かれ目
- 保険併設なら会計の分離が最大の論点
- 比較は機能表ではなく、カウンセリングから中途解約・月次締めまでを通しで操作して判断する
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