「ベースアップ評価料は初診と再診でいくら付くのか」「(Ⅰ)と(Ⅱ)は何が違うのか」「届け出たあと、毎年何を出す必要があるのか」。職員の賃上げの財源として届け出る診療所が増える一方で、算定の仕組みと、届出後の報告義務を整理して理解している方は多くありません。
本記事では、令和8年の診療報酬点数表(告示)、留意事項通知、施設基準通知の原文にもとづき、診療所に関係する**外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)(Ⅱ)**の点数、算定できる場面、施設基準、届出と毎年の報告を整理します。
免責:本記事は2026年10月28日時点の公表情報にもとづく一般的な情報提供です。点数・要件の正本は厚生労働省の告示・通知です。賃金や社会保険に関する個別の判断は、社会保険労務士・税理士や管轄の地方厚生局にご確認ください。
ベースアップ評価料とは
ベースアップ評価料は、診療報酬点数表の第14部「その他」にある区分で、保険医療機関に勤務する職員の賃金の改善を実施することを評価するものです。診療所で関係するのは次の2つです(入院ベースアップ評価料は入院基本料などを算定する施設向けのため、本記事では扱いません)。
| 区分 | 位置づけ |
|---|---|
| 外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)(O001) | 施設基準を届け出た医療機関が、初診・再診・訪問診療のたびに算定する基本の評価料 |
| 外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)(O002) | 対象職員の賃金のさらなる改善が必要な場合に、(Ⅰ)に上乗せして算定する評価料。区分1〜24 |
対象職員は、その医療機関に勤務する職員から「40歳以上の医師・歯科医師」と「業務委託で勤務する者」を除いた人です。40歳未満の医師や、看護職員・医療事務などのスタッフは対象に含まれます(留意事項通知 O001(1))。
点数(告示)
外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)
| 区分 | 点数 | 注5(継続して賃上げに取り組む医療機関) |
|---|---|---|
| 1 初診時 | 17点 | 23点 |
| 2 再診時等 | 4点 | 6点 |
| 3 訪問診療時 イ(同一建物居住者等以外) | 79点 | 107点 |
| 3 訪問診療時 ロ(イ以外) | 19点 | 26点 |
注6・注7により、令和9年6月以降は点数が引き上げられます。1〜3の所定点数は100分の200(2倍)で算定し、注5の点数は初診時40点、再診時等10点、訪問診療時イ186点・ロ45点に代わります。
外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)
(Ⅱ)は区分1〜24に分かれ、区分ごとに「初診または訪問診療を行った場合(イ)」と「再診時等(ロ)」の点数が決まっています。区分の数字が大きいほど点数は高くなります。
| 区分 | イ(初診・訪問診療) | ロ(再診時等) |
|---|---|---|
| (Ⅱ)1 | 8点 | 1点 |
| (Ⅱ)2 | 16点 | 2点 |
| (Ⅱ)3 | 24点 | 3点 |
| (Ⅱ)12 | 96点 | 12点 |
| (Ⅱ)13(令和9年6月以降) | 104点 | 13点 |
| (Ⅱ)24(令和9年6月以降) | 192点 | 24点 |
区分13〜24は令和9年6月以降に算定します(注4)。注5の施設基準に該当する場合の点数は、たとえば(Ⅱ)1が初診等16点・再診時等2点、(Ⅱ)12が初診等160点・再診時等20点と、所定点数と異なります。区分ごとの全点数は告示の原文でご確認ください。
算定できる場面
(Ⅰ)は、算定する基本診療料に応じて区分が決まります(留意事項通知 O001(2)〜(5))。
| (Ⅰ)の区分 | 算定できる場面(主なもの) |
|---|---|
| 1 初診時 | 初診料、小児科外来診療料の初診側、小児かかりつけ診療料の初診側を算定した場合 |
| 2 再診時等 | 再診料、外来診療料、地域包括診療料、外来腫瘍化学療法診療料などを算定した場合 |
| 3 訪問診療時 イ | 在宅患者訪問診療料(Ⅰ)の同一建物居住者以外の場合、在宅がん医療総合診療料(訪問診療)を算定した場合 |
| 3 訪問診療時 ロ | 在宅患者訪問診療料(Ⅰ)のロ、在宅患者訪問診療料(Ⅱ)を算定した場合 |
(Ⅱ)のイは(Ⅰ)の1または3を算定した場合、ロは(Ⅰ)の2を算定した場合に算定します(O002(2)(3))。つまり、(Ⅰ)を届け出ていることが(Ⅱ)の前提です。
初診料・再診料の加算の全体像は 初診料の加算一覧、再診料の加算一覧 にまとめています。
施設基準:(Ⅰ)の要件
施設基準通知(保医発0305第8号)の第105に、次の要件が定められています。
- 外来医療または在宅医療を実施している保険医療機関であること
- 対象職員がいること
- 評価料による収入を、対象職員の**基本給または決まって毎月支払われる手当の引上げ(ベア等)**と、それに伴う賞与・時間外手当・法定福利費(事業主負担分)の増加分に用いること
- 労働基準法等を遵守すること
- 賃金改善の方法などを対象職員に周知し、就業規則等も周知すること。職員から照会があれば、書面などで分かりやすく回答すること
- 過年度に算定している場合、前年度と当年度に必要な賃金改善実績報告書を適切に提出していること
賃金改善の考え方で押さえる点
- 賃金改善の実績は、「令和8年3月または5月時点の給与体系を、当年度に勤務している職員に当てはめた場合の基本給等総額」と「当年度に勤務している職員の基本給等総額」の差分で判断します
- 評価料の収入が賃金改善に使った額を上回り、追加のベア等が難しい場合に限り、賞与などベア等以外の方法による改善が認められます。いずれも改善の対象とする項目を特定して行います
- 評価料で改善する項目以外の賃金項目(業績等で変動するものを除く)の水準を下げてはいけません
- 「令和7年度医療機関等における賃上げ・物価上昇に対する支援事業」の補助金による部分は、上記の総額や実績に含めません
- 6月から翌年5月の1年間に算定した評価料の収入を、当年の4月から翌年3月の賃金改善に充てることは差し支えありません
注5(継続して賃上げに取り組む医療機関)の要件
注5の点数を算定できるのは、次のいずれかに該当する医療機関です。
- 令和8年3月31日時点で外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)を届け出ていた医療機関
- 令和8年度に、対象職員(医師・歯科医師を除く)の基本給等を令和6年3月時点の給与体系と比べて**5分5厘(看護補助者・事務職員は8分)相当以上引き上げた医療機関、または令和9年度に8分7厘(看護補助者・事務職員は1割3分7厘)**相当以上引き上げた医療機関
後者で届け出る場合は、様式95に加えて様式98の提出が必要です。
施設基準:(Ⅱ)の要件と区分の決め方
(Ⅱ)の施設基準(第106)の主な要件は次のとおりです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 入院の規模 | 入院基本料・特定入院料・短期滞在手術等基本料(基本料1を除く)の1月あたり合計算定回数が30未満 |
| 他の届出 | (Ⅰ)を届け出ていて、入院ベースアップ評価料は届け出ていない |
| 収入の見込み | (Ⅰ)で算定される点数の見込み×10円が、賃金改善算定基礎額の5割未満 |
| 人員 | 常勤換算2名以上の対象職員が勤務(別表に掲げる地域を除く) |
| 収入構成 | 社会保険診療等の収入が総収入の100分の80を超える |
| 賃金・周知 | (Ⅰ)と同様に、収入をベア等に用い、労働基準法を遵守し、職員へ周知する |
区分は、賃金改善算定基礎額、(Ⅰ)の算定点数の見込み、(Ⅱ)の算定回数の見込みから算出した数【B】に基づき、別表4に従って決めます。届け出た時点から、対象職員数または(Ⅰ)の算定回数に1割以上の変動があり、算出し直すと区分が変わる場合は、その月内に届出を行い、翌月から変更後の区分で算定します。令和8年度・令和9年度は点数構造の変更に伴い、新規届出時と毎年6月1日時点で算定できるよう届け出ることとされています。
届出と毎年の報告
| 手続き | 内容 | 様式 |
|---|---|---|
| (Ⅰ)の届出 | 地方厚生(支)局長へ。注5を(令和8年度または9年度のベア実績で)届け出る場合は様式98も追加 | 様式95、98 |
| (Ⅱ)の届出 | 地方厚生(支)局長へ。法人内で通算して届け出る場合は様式99も使用 | 様式96、99 |
| 賃金改善実績報告書・中間報告書 | 毎年8月に、前年度の実績と当年度の中間状況を報告 | 様式100の別添1(法人内で集約する場合は別添2) |
| 特別事情届出書 | 事業継続のため対象職員の賃金水準を下げたうえで賃金改善を行う場合 | 様式94 |
| 書類の保管 | 報告書の根拠資料を、算定する年度の終了後3年間保管 | - |
九州厚生局の案内では、令和8年8月の提出は、実績報告書が令和7年度分、中間報告書が令和8年度分で、使用する様式が異なること、提出は所在県ごとの専用メールアドレスに Excel を添付する形であることが示されています。提出先や方法は管轄の厚生局によって異なる場合があるため、実際の提出前には所在地を管轄する地方厚生局のページをご確認ください。
実務チェックリスト
- 対象職員の範囲(40歳以上の医師、業務委託の者を除く)を、給与台帳で区分けしている
- ベアを行う項目(基本給または毎月の手当)と対象職員を特定し、就業規則等とあわせて職員へ周知した
- 評価料の収入と賃金改善額を、毎月または四半期で突き合わせている
- 賃金改善の基準となる給与体系(令和8年3月または5月時点)と補助金の除外範囲を、記録に残している
- (Ⅱ)を届け出ている場合、対象職員数や(Ⅰ)の算定回数の変動(1割以上)を確認する担当を決めた
- 毎年8月の報告と、3年間の根拠資料の保管をカレンダーに入れた
- 令和9年6月の点数変更に向けて、レセプトコンピュータ・電子カルテのマスタ更新予定を確認した
よくある質問
Q. 届出はいつから有効ですか。
A. 届出の受理時期と算定開始月は、管轄の地方厚生局の取扱いによります。届出前に厚生局のページで受付期限と算定開始日をご確認ください。
Q. (Ⅰ)だけでも届け出られますか。
A. はい。(Ⅱ)は(Ⅰ)を届け出ていることが前提で、別に届出が必要です。
Q. 医師の賃金も対象になりますか。
A. 40歳以上の医師・歯科医師は対象職員から除かれます。40歳未満の医師は対象職員に含まれます。
Q. 評価料の収入が賃金改善額より多く残った場合はどうしますか。
A. 追加のベア等が難しい場合に限り、賞与などベア等以外の方法で賃金を改善できます(改善する項目は特定します)。具体的な取扱いは、通知と疑義解釈資料でご確認ください。
まとめ
- 外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)は、初診時17点、再診時等4点、訪問診療時79点/19点。令和9年6月以降は引き上げられる
- (Ⅱ)は(Ⅰ)の届出が前提で、区分1〜24。入院規模、収入の見込み、常勤換算2名以上、社会保険診療等収入80%超などの要件がある
- 収入は対象職員の基本給等の引上げ(ベア等)とそれに伴う費用に用いる。補助金部分は賃金改善の実績に含めない
- 届出後も、毎年8月の賃金改善実績報告書・中間報告書と、3年間の書類保管が必要
- 令和8年度改定の全体像は 診療報酬改定2026の全体像 に、医療DX関連の加算の再編は 医療DX関連加算の再編 に、算定漏れの防ぎ方は 算定漏れの原因別チェックリスト にまとめています。
ポテックは、クリニック向けのAI電子カルテと、算定要件をふまえたレセプトチェック機能を提供しています。改定に合わせた点数マスタの更新や、評価料の算定状況の確認などでお困りの際は、お気軽にご相談ください。
参考・出典
- 厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部を改正する件」(令和8年厚生労働省告示第69号)医科診療報酬点数表 O001・O002 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001686842.pdf
- 厚生労働省保険局医療課「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(令和8年3月5日付 保医発0305第6号)別添1 第14部 その他 O001・O002 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001757385.pdf
- 厚生労働省保険局医療課「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」(令和8年3月5日付 保医発0305第8号、1007訂正後)第105・第106 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001757367.pdf
- 九州厚生局「ベースアップ評価料 実績報告について(令和8年8月提出分)」 https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kyushu/iryo_shido/base-up-houkoku.html
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」告示・通知ページ https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html